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Column 子育てエッセイ

坂上みきの「君はどこから来たの?」・23「超」がつく高齢出産で、母乳はどうしたか【坂上みきの「君はどこから来たの?」】

2018.01.15

ラジオパーソナリティ・坂上みきさんの人気連載!

ひょんなことからニュージーランドの男性と出会い、
紆余曲折を経て、息子が生まれた!
日々雑事に追われつつ、その感慨をかみしめる新米ママの
一喜一憂を大公開。

この連載は……

結婚後、大きな決心をして、子どもを授かるに至ったラジオパーソナリティ・坂上みきさんが、一人息子との触れ合いや友人たちとの会話を通して遭遇するさまざまな感情をストレートに伝えていきます!


出る?出ない? 超高齢母の母乳騒動

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できれば、母乳だけで育てましょう。

誰が決めつけたわけでもないのだろうが、そんな風潮がどこかに、ある。

けど、母乳がふんだんに出るかどうかは、産んでみなくちゃわからないし、早々に仕事に復帰すれば、いともあっさり、完全母乳は不可能になる。搾乳して、冷凍して、保存しながらやり遂げた、立派なお母さんも、もちろんいらっしゃるのだけれど。

私は、無理。何しろ「超」がつく高齢で出産したものだから、そもそも出るのかッ!って話ですよ。

結論から言うと、徐々にではあるが、出たんだなぁ、これが。日を追うごとに、面白いように、ピューピューと。

自分でもびっくりしているくらいだから、いいんだけど、(聞いちゃ失礼かな? でも好奇心が勝るぅ~)とおそるおそる「母乳ですか?」と聞いてくる人が、相当数、いた。

皆、高齢=母乳は出ないもの、と決めつけている節があり、「そうですよ。余るほど出ますよ」とニッコリ答えると、「はーあ」と目を丸くし「さすが、体育会系ですね」などと的外れな感想を添えながらも、大いに驚き、感心してくださるのが、可笑しかった。

「何が何でも母乳1本!」という強い意志や思想があったわけでもないが、「その方がいいのであれば、そうしてあげたい」という気持ちはあった。でも、出産直後は、麻酔が切れ、帝王切開の痛みに苦しみ、悶々としていたので、正直、母乳どころではない。

母子同室であったけれど、最初の検診からベイビーが戻ってきた時だったかな?「ミルクあげておきましたからね」と言われ、不意打ちを喰らったような感じで、あっさり完全母乳は消えた。

そこにはこだわらない産院だったわけだ。とはいえ、粉ミルクオンリーかというとそうではなく、次の日、母体が少し落ち着いたのを見計らって、「じゃあ、母乳出るかやってみましょう」とガタイのいい助産婦さんが病室に送り込まれてきた。

「無理でしょ」と卑屈に、ハスに構える私に、「イテテテテ」力ずくで揉みしだくこと数分、「お、出るかもしれませんよ!」「あ、ホントだ。出てきましたねぇ」うっすらとにじみ出てきた白いものに、ようやく鉱脈を掘り当てた坑夫のように、助産婦さんと手を取り合って喜んだものだった。

初めは、吸い方がわからない息子と、吸わせ方がわからない母で、ぎくしゃく、ヒリヒリと痛みを伴うこともあったが、そのタイミングが双方にわかってくると、そこからは、どんどん加速度的に勢いを増し、江戸時代であれば、文字通り「乳母」にもなれた。お世継ぎだって私の乳で育ててみせる?ってくらい、豊富に母乳が製造され、蓄えられ、確実に吸い上げられていった。

好循環だ。息子と二人で、良いオッパイを育てていくこの快感。

それは、植物を育てるのに似ている。

若い頃、鉢植えに凝って、ベランダ中を緑で埋め尽くしていたことがあった。

毎日水をやり、栄養分を補給し、枯れた葉っぱをまめに取り除き、少し成長すれば、鉢の大きさも、ひとまわり、ふたまわりと大きくしてやる、すなわち愛情をかけると、植物はどれも、その期待に応え、生き生きと、しかも見栄もよく、立派に育ってくれる。オッパイだって丹精だ!

その甲斐あって、そのころの私のオッパイは、艶、ハリ、大きさ、ともに申し分なく、自分で言うのもなんですが、自分史上サイコーの「美乳」だったと思う。

“愛されるオッパイ”とはかくや、という多幸感に溢れていた。

しかも、泣き出せばオッパイ、寝かせつけるのもオッパイ、ヒコーキの離着陸時の気圧耳抜き対策にもオッパイ、と機能性にも優れていて、最高のスペックを有していたのだった。

母子ともにオッパイへの「情」は深まるばかりで、いつまでも離れようとしない息子と、無理に引き離そうとはしない母で、「卒乳」「断乳」の機会はどんどん先延ばしになっていく。

さようなら、愛しのオッパイ

3歳になったばかりの頃、ママ友からメールが届いた。

「一足お先に、断乳成功!」。添付写真を見ると、ママのオッパイに見事なウサギの顔が描かれている。色彩も豊かに、輪郭は指でぼかしたグラデーション、鎖骨近くにまでピンと伸びた耳のバランスといい、完璧にプロのお仕事だ。生々しさなど欠片もなく、このまま展覧会の壁にかかっていたら、誰も元がオッパイとは気づかないだろう。

昨今、断乳法の一つとして、オッパイに顔を描く、というものがある。「へのへのもへじ」的な雑な感じでも、いつもあるべきオッパイの場所に、変なものがある、と子供は驚き、それからはオッパイを口にしなくなるという、嘘みたいだけど、絶大な効果があるらしいのだ。

オシャレな暮らし向きのママには、黒マジックで自前の絵を雑に描くなど、許しがたかったのだろう。

知り合いのイラストレーターに頼んで描いてもらった、渾身の“作品”。彼女の息子は、いつものようにママのセーターをめくりあげて、オッッパイに飛びつこうとした瞬間、ウサギが2羽自分をジーっと見つめている。「おっ」と小さく声を発したまま絶句。しばらく絵を眺め「何これ?」と、ゲラゲラ笑いだし、また、セーターの裾を閉じた。That‘s all.

以来、オッパイに見向きもしなくなったというから、大したものだ。

先を越されて、少し焦る。「うちは、どうしたものか?」。画家やイラストレーターの友人もいるが、自分の裸体を差し出すのは、はばかれる。

そうこうするうち、その年末に、私が逆流性食道炎を患った。処方された薬を服用したあと、無頓着に(無神経に?)授乳を続けていたら、なんと息子に発疹が出てしまったのだ。

少し点々と赤みがさした程度だったが、悪いことをした。きっちり45日間服用し続けなくてはならない薬の袋を手に、息子にコンコンと言い含めた。

「ママは病気で、この薬を45日間飲み続けなくてはならないの。その間は、オッパイ飲むと、ウーちゃんも病気になってしまうのね。だから、オッパイはしばらく、なしになります」

3歳には聞き分けられないのではないか、と危惧したが、神妙な空気が伝わったのか、
「うん、わかった。でも、ずーっとじゃないんでしょ?」
「そう、45日たったら、また飲めるよ」
「そっか。言ってよ!『45日たったよ』って。絶対だよ」
 必死に45日後に夢を託した、その健気さに、キュンとなる。

次の日も「45日たったら、言ってよ」と念押ししていたが、その次の日には、何も言わなくなり、そして、45日後に、「今日でもう、薬は終わりました!」と高らかに宣言しても、「えっ? ああ」と照れたような表情をしたっきり、もう、オッパイを欲しがることはなくなった。

そんな断乳。ぐずることもなく、プロの絵師を雇うこともなく、薬にかこつけて終わらせることができたのは、ラッキーだったのかもしれないが、宙ぶらりんな気持ちで取り残されたのは、母のほうだった。

育児の不安に押しつぶされそうになった夜も、オッパイを含ませれば、「シアワセだなぁ」と感じることができた。

添い寝の快楽を教えてくれたのもオッパイだった。

ありがとう、愛しのオッパイ。
残念ながら、しぼんで年相応になった、今のオッパイは、完全に別物。

サヨウナラ、愛しのオッパイ。
こうして、子も母も成長していくのだね。あと何回、こんなことを繰り返すのだろう。そのすべてを全身全霊で受け止めたいと、思う。それが子育てだから。

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坂上みき(さかじょう・みき)

ナレーター、イベント司会、ラジオパーソナリティを務める傍ら、映画コラムやエッセイを執筆。東京マラソンでは、自己ベスト3時間58分で完走。
2006年に12歳下のニュージーランド人と結婚、2012年に男児出産。
現在は、日本テレビ「暇人ラヂオ」に出演、ラジオ日本「坂上みきのエンタメgo!go!」ではパーソナリティを務めるなどして活躍中。
「最近インスタを始めました! 子どもの撮った写真をアップしていきますので、ぜひフォローしてくださいね!」 @mikisakajo

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