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【フランスからの報告】小学校での美術教育

【フランスからの報告】小学校での美術教育

モネ、セザンヌ、ルノワールなど多くの画家を生み、ピカソ、ゴッホ、シャガールなど異国の画家達からも深く愛されてきたフランス。
今も世界中から多くの人々がルーブル美術館やオルセー美術館などを訪れ、美術を学びにもやってきている。

そんなアート大国で子ども達はどのように絵画を学んで育っているのか。
今回は小学校での美術教育についてレポートします。

第23回 芸術大国フランスの「小学校での美術教育」

鑑賞などの「受け身」ではなく、有名絵画も、まずはいじらせてしまう「主体的」美術教育

有名絵画というと、まずは「鑑賞」。次には「これは誰の絵?」「それはどこの国の画家?」「いつの時代の作品?」そんな風に、どちらかというと知識重視で学んだ記憶が強い私には、フランスの小学校での美術教育は本当に驚きだった。

例えば、この「モナ・リザ」についての学習。

子ども達は「どんな風にしてもいい。自分の好みやイメージのモナ・リザにアレンジしよう♪」と絵画写真のコピーを渡され、それに取り組む。

「怖い顔だよね。吸血鬼みたい」という子もいれば「体格がいいから、きっとスキーに向いている人だな」「食いしん坊っぽい。ワインも好きそうだよね」という子もいたりする。

鑑賞したり覚えたりという「受動的」ではない「能動的」教育。
どんな偉大な作品も、自ら手を加えれば「自分のもの」になり距離感はグンと縮まる。もしかしたら記憶にも長く残るかもしれない。

エッフェル塔もアレンジ

フランスの首都パリの象徴的な名所エッフェル塔についても同様。
この村にはエッフェル塔がパリにあることは知っているけれど、まだパリに行ったことがない子どもも多い。
「どんなところに建っていると思う?」「どんなところに建っていたらいいなと思う?」
そんな先生からの問いかけに、まずは周囲へのイメージを想い、そして描く。
さらには「これってなにでできているのかな?」という疑問が出て、
「何でできていると思う? 何でできていたらいいと思う?」
鉄製であることは答えず、そう問うと、数人の子ども達はエッフェル塔の写真を貼るのをやめて、自分で好きな色で描き始めたという。

「正解は大人になってから知ることができる。それよりも、まずは興味を持つこと。想像や創造の脳機能を動かすこと。それが初等教育の重要ポイント」なのだそう。

ストリート&ポップアートも

ストリート&ポップアートの先駆者キース・ヘリングの絵についても同様。まずは「自分でも描いてみよう!」から取り組み、近づく。

ニューヨークの地下鉄やベルリンの壁、パリやアムステルダムの公共空間、最後はイタリアの教会の壁にも描き、エイズ撲滅や恵まれない子どもへの社会貢献活動でも知られているアメリカ人画家だが、そういった知識も後で自分で興味を抱いた時に学べばよいこと。

旅行中に見かけたり、社会貢献を学んだりした際に「この人の絵、知ってる!」と思い出せればいい。

つまり、あくまでも初等教育での美術は「きっかけ」の根っこづくり。
触れた痕跡(記憶)を残し、後の様々なこと(好奇心、知識、経験、学業、事業、社会貢献など)へのきっかけになれば、それで十分と考えられている。

葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」の学び方

そしてフランス全土の小学校の高学年(9&10歳)への共通課題とされているのが葛飾北斎のこの名作。
表題は「La Vague(波)」と訳されている。
どんな風にこの絵をフランスっ子達が学んでいるのかを覗いてみよう。

1)まず、絵をよく見て、気づいたことを言う。

「すごい波! 大きい!」
「まるで津波みたいだ」
「あの山はモンブランと同じくらい有名な日本の高い山だよね。それより波の方が高いんだぁ!」
「それは違うよ。山はずっと遠くにあるから波より低く見えるだけなんだよ」
「本当にあそこに山があるのかな? 波が高いことを表現したいから描いただけなんじゃないのかな?」
「船に乗っている人達は、どうしてあんな姿勢でいるの?」
「なんで皆、同じ場所に固まっているんだろう?」
「日本だからKimono(着物。※Kimonoはフランス語になっている)を着てるよね。濡れても大丈夫なのかな?」
「僕は柔道をしてるけれど、Kimonoは洗うとすごく重くなって、干してもなかなか乾かないんだよね」
「この船はなにでできているの?」
「アヴィロン(ボート競技スイープのフランス語)なのかな?」
「だったら、これはサーフィンみたいな日本の競技?」

これらが子ども達の発言で、面白かったのは
「白い粒々は雪?」
と言う子が多かったことだという。
山育ちの子どもには、白い粒からは水しぶきよりも雪への連想の方が強いらしい。

2)その後「La Vague(波)」という言葉から連想する絵を各自、自由に描く。

3)さらに「波」「大波」「津波」「波のうねり」「水しぶき」「潮」「山」「船」「着物」「オール(船を漕ぐための櫂)」といった単語を語彙力を増やすために学び、読み取り&書き取り。

つまり最後はフランス語の勉強につなげる。ココがフランス初等教育の特徴。
「読み書き&そろばん(母国語&算数)」を最優先。
「小学校の間、すべての教科は国語と算数を強化し、より充実させるための枝葉」という理念に基づいている。

感嘆詞を絵で表現する学び

さらにコレもその国語&美術教育の繋がりの一例。
「素晴らしい!」「ゴージャス!」「なんて素敵な景色なんだ!」
「それら感嘆詞や感動した時に呟くセリフからイメージする絵を描きましょう♪」という課題でも絵を描き、感嘆詞を自分の感性と密接にさせる。

評価はしない。花丸もつけない。

©️Dorothee Ben Art

これらが優れた美術やアート教育なのかどうかは解らない。
ただ一切、小学校では点数も成績も、そして「トレビアン(よくできました)」いわゆる花丸をつける判定さえもしないところは、とてもいいなと思う。
評価は、下手をすれば苦手意識を芽生えさせ、劣等感を与える「余計な早期教育」になりかねない。
美術教育こそ「自由」や「伸び伸び」を尊重して良きものなのかもしれない。
それがアートに溢れる国フランスで私が気づかされたことの一つだった。

祐天寺りえ

祐天寺りえライター

1994年フランスのスキー場(メリベル)に移住。小学校勤務(給食、教室清掃、スクールバス添乗など)、執筆業、鍼灸&指圧&アロママッサージなどを生業とする3子(20&21&26歳)のシングルマザー。著書「フランスの田舎暮らしとおいしい子育て(小学館)」「食いしん坊の旅(パラダイム出版)」「フランスだったら産めると思った(原書房)」facebook.com/rie.yutenjiosaki

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