異国でコロナ陽性発覚。家族間感染との闘い
家族とモスクワ駐在中の田中さんは、9月にコロナに感染しました。5か国語に堪能で、ロシア人とも仲良しの彼女。でも、異国の地で、未知の病にかかるのは不安です。すでに家族全員が感染しているのか? それとも自分だけ感染? ならば、家族にうつしたくない、と必死でした。(前編の記事はこちら)
消毒液を枕元に置き、常にマスクをしながら授乳
抗原調査によって、コロナ感染が判明したのは、田中さん本人だけです。3歳の娘さん、8か月の息子さんは、顕著な症状がみられないため検査を勧められませんでした。ご主人は、抗原検査、抗体検査ともにこの時点では陰性でした。すでに家族全員が感染しているのもしれない、もしくは今は感染していなくても、2週間の間にうつしてしまうかもしれないという不安が、田中さんを襲いました。
家族内感染のリスクが高いため、田中さんとご主人は家族間でもマスクを外しませんでした。
―何が一番大変だったの?
「やっぱり、家族にうつしたくないと思った。家族全員、鼻水が出ていたから、もう感染しているのかな、とも考えたけど、もし陰性ならうつしたくない。料理するときは、一言もしゃべらず手早く。幸い、洗面所が2つあるからひとつを私専用にできた。下の子への授乳も、常にマスクをしながら、夜中の授乳は枕元に消毒液を置きながら。体調は問題なかったけど、気持ち的に厳しかったなぁ」
母乳育児とコロナについて調べると、WHOは「母親がコロナ感染していても、母乳育児を推奨」していることが分かりました。「母乳育児の栄養や免疫向上、愛着関係という利点が、感染の潜在的なリスクを大幅に上回る」という理由です。同時に、「ウイルスが母乳を介して伝播するかどうかは証明されていない」とも述べています。マスク着用、手指消毒のうえでの授乳が良いとされています。*1
感染原因は、子どもの残り物を食べたこと
1週間後、検査実施が難しい0歳児を除く家族3人がPCR検査を受けました。PCR検査は3人とも陰性でしたが、3歳の娘さんが抗体検査で陽性。
―娘さんからうつったであろうという結果だけど……。
「私は、本当に注意深く生活していた。外出から帰ったら、玄関で洋服を着替え、スーパーで買ってきたものはすべて消毒した。あんなに感染予防がんばっていたのに、なぜ? よくよく思い返すと、子どもの食べ残しを食べていたんだよね。そりゃうつるよ。世界中の親達に言いたい。感染症が流行っているときは、もったいなくても子どもの残り物を食べてはいけないって!」
経験から導き出された、とてもためになる、そして耳の痛いアドバイスです。子どもってご飯を残すものですし、私もつい残りを食べてしまいますから。
―田中さんのご両親は、海外にいる娘や孫を心配したでしょう?
「ものすごく心配された。突然重症化したら、どうしようと。夫婦で共倒れになったら、子ども達はどうなるのだろうと、私も怖かった」
感染判明1週間後、味覚・嗅覚異常と倦怠感が現れた
感染判明から1週間、田中さんに味覚異常・嗅覚異常と倦怠感が現れました。
「ものの匂いや味がだんだん薄れていく感じがした。子どものうんちの匂いが分からないから、おむつの替え時がわからなくなった。タオルが臭くなっても、夫に指摘されるまで分からない。もしガス漏れしていて気づけないってことか、とコロナよりある意味恐ろしく感じた」
と、チョコレートをつまみながら語る田中さん。味がしないのに、なぜ今わざわざチョコを食べる?
「味も匂いもまったくしないけど、チョコを食べてる自分に満足しているというか……。さすがに高級チョコレートは、もったいないから今は食べたくないな~」
―他に症状は?
「ここ最近、抜け毛が多い気がする。でも産後の抜け毛の量に比べれば、たいしたことない。倦怠感はちょっとある」
コロナに感染しても、誰も私達を責めなかった
2週間経ち、自主隔離が終わりました。
―娘さんの幼稚園は、どんな反応だったの?
「感染を伝えたら、幼稚園の先生達からは、大変だね、今は誰が感染してもおかしくないから、お大事にね、と言われた。2週間経って娘が登園開始する時には、陰性証明が必要だった。そういえば、幼稚園に9月新学期で入る時『わざと周囲に感染させると罰金や禁固刑を課す』という書類にサインをしたけど、これは国の規則だから」
―日本だったら、「気のゆるみが」って言われちゃう人もいるみたい。回復してからも、同じように周囲と付き合いが続けられるか、ちょっと不安かも。
「ロシアでは、そういう考え方はしない。仲良いロシア人ママ友にも、公園で接触したからすぐ連絡したけど、ふーんそう、って感じでつきあいは変わらないよ。差別や嫌な扱いをすると、本人が検査を受けたがらないし、まず隠すでしょう? 悪循環だと思う。誰もがかかるものになりつつあるのに。コロナにかかる人を減らして、人類としてこの感染症を収めるためには、感染したことを隠していては進まないよ」
―後遺症は残ったの? 経過は?
「3か月経って、ようやく大まかな味覚はわかるようになってきた。でも、匂いはまだあまりわからない。味にしても、ニンニクやパクチーなど匂いと深く結びついているものはよくわからない。子どものうんちの匂いには少し気づくようになってきた。倦怠感は10月いっぱいまで続いた。ひどい時は一日中、いくら寝ても足りないようなだるさを感じた。常に、徹夜明けみたいな感覚」
田中さんはすっきりした顔つきです。味覚喪失して、痩せたのかな? きっと辛かったのね……?
「いや、残念ながら食欲は衰えず。でも、コロナ太りを解消したいと思って、ダイエットしたんだ! 順調に痩せて、心身共にクリアになってきた」
―回復後は、抗体があるから気が楽になったんじゃない?
「でも、再感染しないとは限らないから、変わらず予防に努めているよ。まだ夫が感染していないわけだし」
PCR検査は日常化しているが、あまりマスクをしないモスクワの人達
―今のモスクワの生活はどう?
「感染者数は、常に多い状態が続いている。検査の受けやすさについていうと、4、5月の時点で、お金さえ払えば金持ち向けの私立病院では、PCR検査を受けられた。私は、9月に外国人向けのセレブ病院に行って3万円も払ったけど、市中では3000~4000円くらいで受けられたみたい。オンラインで事前登録して、病院で検査、結果もオンライン通知。
夫は、国内の他地域に出張したら、2日間は自宅勤務をして、PCR検査と抗体検査を受けて陰性だと証明できるようになってから出社している。会社の規則だからね」
―ロシアでも、皆マスクをしているの?
「規則だから、一応しているかな。でも、鼻がカバーできていない人や、あごマスクの人も多い。地下鉄構内と車内は、必ずマスクと手袋を着用しないといけないけど、車内は暖房がきいていて暑いから、皆、手袋もマスクもとっちゃう。座席も1席ずつ空けて座るように表示されているけど、誰も守らず、ぎゅうぎゅうに詰めて座っている。総じて、マスクをしない人は多いよ」
モスクワ市ではPCR検査が日常化しているようです。拙速な感は否めませんが、ワクチン接種が始まりましたので、これを機にロシアのコロナ感染が収まることを祈ります。
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NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)情報」
(この記事は、2020年12月5日現在の情報を元にしています)