【フランスからの報告】フランスの国際教育①
海外旅行や出張、研修や留学もできなくなってしまったこの1年。そんななかで日本での英語をはじめとする外国語教育や国際教育への関心は、コロナ騒動にも負けず、今も健在なのでしょうか? 逆にこんな異国に行けない時こそ「島国化」しないためにも、視野や視界が広がる機会を子ども達には与えたいですよね。
2回に渡り、フランスの国際教育についてリポートします。
第20回 フランス人も『英語コンプレックス』は悩みの種
「日本は英語の通じない国」とよく言われ、それに対して私達日本人は肩身の狭い思いをしているけれど、フランスも同様。
ただ違うのは「ここはフランス。来る人がフランス語を喋ればいい!」と胸を張ってしまう気の強さ。また「フランス人は英語を話せるのに、プライドの高さや意地悪さから話さない」などとも言われるが、それも違う。英語を話せる人は話す。つまり話さない人は「話せないから話さない」だけ。
英語で話しかけられて石のように固まってしまう私達とは違い、ツーンとそっぽを向くので誤解され、嫌われてしまうところがフランス人の弱点。不器用さとも言える。
義務教育の威力は大!? 初等教育から英語授業が義務になった世代から、英語コンプレックスは確実に減少
2019年にWall Street Englishが18歳以上のフランス人1500人を対象に行った調査によると、自分の英語レベルについて「高レベル」と答えたのは僅か1%。「良好」も6%のみ。「低い」が44%。「とても低い」が11%。
「英語力のなさから職業を諦めたことがある」と答えた人も全年齢では25%。
昔と違い国際ビジネスが増えている今は、その悩みも増える一方で、30〜35歳になると41%、さらに20歳代になると61%に及んでいる。そのため英語研修を望む人は、全体で55%。20〜35歳では64%。高年齢でも管理職になると62%が希望している。
一方で、注目したいのは世代による違い。
全体では6%のみの「良好」との回答も、35歳以下では33%に増える。この違いは、政府が初等教育に英語を始めた歴史と一致。つまり、義務教育における英語の早期教育は有効なものらしい。
年々、改革されている義務教育における英語指導。その現状はどういうものなのか、詳細をみてみよう。
初等教育(幼稚園&小学校)での英語教育
現在、フランスでは幼稚園(3〜5歳)からの英語の時間確保・義務化を政府が推進。その時間数は
・幼稚園(年少&年中&年長組)週2回・各20分
・小学校(6〜10歳)週2回・各45分
テストはなく成績もつかないが、教師には国から「小学校卒業時点までに教えるべき要項」が渡される。ただし、幼稚園と小学校の運営は各市町村に委ねられている。そのため、ネイティブの英語教師を雇うか、クラス担任が英語の授業も請け負うかは、各市町村の財政状況によって異なっている。
国際的スキー場として税収入が多く、住民にも英国人が多い我がメリベル村では、村在住のJO(オックスフォード大学・初等教育学科卒)を雇用。彼女に実情を聞いてみた。
フランス教育省から渡される「小学校卒業までに教えるべき要項」には、時代遅れな単語や実用的ではない言い回し&文法が多々。そのためJO(写真)は自分で各クラス用メソッドを作成し教えている。また授業時間については幼稚園生は20分、7〜10歳には45分というのは適度。しかし1年生(6歳)に45分は長すぎるので30分が望ましいと感じているそう。
幼児は「オウム返し」が大得意。だから外国語スタートには最適♪
以前は小学1年生(6歳)からの義務であった英語教育が、さらに早まり幼稚園年少(3歳)からになったのは2018年。「家庭事情による教育格差をなくすこと」を強く推進するマクロン政権になってからだ。
先走って頭に詰め込むような早期教育は問題。でも、初等教育での英語の早期導入はとても良いことだとJOは言う。なぜなら
「3歳児はまだ、どんな言葉でも“オウム返し“で発音する習性があるため」
確かに幼児は悪い言葉もすぐに口真似し、たちまち覚える。母国語と外国語の区別もせず、耳にすれば、何も気にせず「オウム返し」。時にはわずらわしいほど繰り返し口にもするが、実はその限られた時期こそ言語習得には最適らしい。言語教育での最重要ポイントは「発音すること」。文法や読み書きは後回し。まずは『耳にし(リスニング)』『発音する(スピーキング)』。それさえしていれば、口と耳、つまり身体が覚えるので、自転車と同じで何年経っても忘れなくなる。それに子どもは書くことや読むことには飽きてしまうけれど、喋ることには退屈しない。
これがJOの英語教育論だ。
クラス担任が英語も教えてしまうデメリット
きちんとした発音を聴かせ、真似させるためには「ネイティブな専門教師の雇用」が肝心。
また、クラス担任が専門分野ではない英語も教えると、どうしても教育省の作成したマニュアルに沿った「実用的でない単語や文法中心の教え方」になってしまいがち。
確かに、この村でもクラス担任が英語を教えた時期があるが、やはり文法や読み書き中心で黒板を多用。JOは黒板もノートもほとんど使わない。
そしてもう1つ、クラス担任が英語の授業も担うことの大きなデメリットがある。それは
「他の授業のために英語の時間をつい削ってしまう」融通性だ。
その点、専門の教師を時間で契約&雇用すれば、その時間のためだけに出勤してくる英語教師にクラス担任は席を譲らざるを得なくなる。子ども達の英語時間が削り取られることは皆無になる。
メリベル村にある2つの幼稚園&小学校と、隣の谷の幼稚園&小学校1校で英語教師をしているJOはイギリス人。メリベル村在住。自然とスポーツと犬が大好きなキュートな女性。
「遊び心」でアプローチ
言語学習への意欲を掻き立てるのは、あくまでも「面白さ」。そうしないと「つまらない」「退屈」「面倒臭い」が勝ってしまうから。そのためにも指導者は常に「遊び心」でアプローチすることを心がける。
そして、幼児期から喋る母国語を人が一生忘れないように、外国語も幼児期から耳や口、身体で覚えればずっと忘れない。自転車の乗り方や泳ぎも一度習得すれば一生忘れないのと同様だ。とJOは言う。
実際、JOがどのように幼稚園・小学校で教えているのかを覗いてみよう(Photo©️Jo Parker)。身体についての単語は、各部分に付箋を貼って覚えていく。
服やアクセサリーもイラストではなく、実物を着たり身に付けたりして単語を知る。
大きめな服やキツイ服も着て「Too big」「Too small」などの単語も体感。
StopやGoなど交通用語はロリポップ(日本でいう緑のおばさん?)役を立てて学ぶ。でもメリベル村の子ども達はスクールバスか親同伴で通学。集団登校も子どもだけでの徒歩登校もないので、子ども達には意味不明の演出になってしまったらしい。それでもStopとGoは覚えられた。こんな風に時々、イギリス人のアイデアが通じないこともあるそう
Joが作ったイギリス料理(この時はヨークシャー・プディング)を試食。料理や食材の名前を知る。
英語が母国語なのはイギリスやアメリカだけではないことも伝えるために、オーストラリアについても食べ物で紹介。「オーストラリアの納豆」「世界一まずいジャム」とも言われる発酵食品「ベジマイト」を子ども達と試食。嫌がられながらも「不味い」や「臭い」「塩っぱい」などの五感単語や「好き」「嫌い」「もう要らない」「気持ち悪い」など、実用的なボキャボラリーを増やせた。
次回は、初等教育に続く中学・高校・大学ではどのように外国語教育がされているか。そして言語以外の「世界を知る」ための国際教育方法などについてもリポートします♬