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妊娠中でも飲める!ちょんまげ醸造家が造る、発酵ジンジャーエール【「マイ・エシカル」でいこう。 5】

妊娠中でも飲める!ちょんまげ醸造家が造る、発酵ジンジャーエール【「マイ・エシカル」でいこう。 5】

第5回 生まれ育った地域に、緑を取り戻すために。 ~醸造会社社長・周東孝一さん

300年前の製法を受け継ぐ、本物のジンジャーエール

JRさいたま新都心駅から北東へ約6.5km。江戸時代中期、徳川吉宗が開いた「見沼田んぼ」を横目に車を走らせると、住宅地の一画に、その小さな醸造所はありました。

さいたま市見沼区にある、築45年の木造民家。周東孝一さんが経営する『株式会社しょうがのむしの醸造所』です。玄関を開けると、つんと鼻を突くショウガの香り。奥のほうで、200リットルの鍋が白い湯気を立てていました。

「沸騰してから30分から50分くらいを目安に煮出します。ショウガは全部見沼産ですよ」

周東さんが造っていたのは、「発酵ジンジャーエール」。300年ほど前にイギリスで生まれた伝統的な飲み物で、ショウガやレモンなどの汁を発酵させて造ります。現地では「ジンジャービア(Ginger Beer)」の名で知られ、「ジンジャーエール」のルーツであるといわれています。ただ、日本で現在市販されているジンジャーエールは、ショウガシロップを炭酸水で割って造ったものが多く、大量生産品のなかにはショウガが入っていない製品もあります。ショウガをふんだんに使い、伝統的な製法を守る周東さんは、それらと差別化するために「発酵」という言葉をつけました。

材料は細かく砕き、ネットに入れて煮出す。この日はローゼルとトウガラシを加えた特別醸造品を製造していた

漢方薬や、インドの伝統的なアーユルヴェーダ医療でも多用されるショウガは、抗炎症作用や健胃作用、新陳代謝促進などの効果があるといわれています。周東さんは、発酵ジンジャーエールで「ノンアルコール飲料業界に革命を起こしたい」と自信をのぞかせます。

「飲むと身体がポカポカしてきます。発酵が醸し出す香味とあいまって、ノンアルコールなのにお酒を飲んだような感覚を楽しめますよ」

醸造所には400リットルと100リットルの発酵タンクが2台ずつある。100リットルタンクは主に特別限定品や試作品を造るときに使う
しょうがのむしという社名は、醸造時に使用する酵母液「ginger bug」の直訳。日本語では何かに熱中する人を「〇〇の虫」と表現することから、ずっとショウガに熱中していたいという願いも込めた

おいしくて、身体があったまる。ノンアル飲料の新しい選択

発酵ジンジャーエールは本来、もっとおいしく、楽しく、自由で奥深いと話す周東さん。本場イギリスを中心に、海外ではいろいろな副原料を入れた製品が発売されているそうです。

「たとえばローズマリーとタイムの香りを出したものとか、日本のシソや麹が入っているものなんかも出ていますよ。うちも定番商品だけじゃなく、農家さんや企業と提携して限定品を造ったりもしたいですね。楽しい展開、そして、とがった商品をめざします」

果実やハーブ、スパイスなどの副材料を自在に組み合わせ、さまざまな色、味、香りを表現できる発酵ジンジャーエール。周東さんがその魅力と可能性に注目したのは、ある出来事がきっかけでした。

台湾出身の両親のもと埼玉県川口市で生まれ育った周東さんは、台湾への留学経験もあり、堪能な中国語を生かして日本で翻訳会社を経営してきました。3年ほど前、台湾出身の妻の実家に滞在していた時のこと。知人にもらったショウガを消費しきれず、大量に余っているのを目にしました。酒販会社での勤務経験があり、利き酒師としての活動経験もある周東さんは、以前飲んだことのあるジンジャービアを造って義父母にふるまいました。「おいしい。身体があったまるね!」と大好評だったそうです。

帰国後、周東さんは見沼田んぼの周辺を車で通りかかりました。米の生産調整により、1970年頃から水田から畑地への転換が進められた見沼田んぼ。その田園風景や自然環境は現在も残されていますが、都市化や後継者不足から、休耕地も目立っていました。幼い頃から親しんできた見沼田んぼが再び緑を取り戻すにはどうすればいいか。そう考えるうち、周東さんの脳裏に台湾での出来事が浮かびました。

右から、定番商品の「honey bee」と「northern dark snail」、市内で試験栽培されているナシを使った「和梨試験醸造品」

社会課題の解決とビジネスの両立をめざす

かつては葉ショウガの栽培がさかんだったという見沼田んぼ。発酵ジンジャーエールの醸造・販売により、ここで再び葉ショウガが栽培されるようになれば、休耕地問題の解決につながる。そのアイデアを固めた周東さんは19年6月、さいたま市主催の「世界を変える起業家 ビジコンinさいたま2019」に応募。経営ビジョンや事業計画を発表し、グランプリを受賞しました。翌年2月に会社を創業。見沼田んぼでのショウガの試験栽培、ハーブの栽培、養蜂の勉強なども試しながら材料を吟味し、レシピを研究しました。

主原料となるショウガは、地元で栽培されている「三州生姜」と、宮崎県でたった一軒の農家が栽培を続けてきた「幻のショウガ」と呼ばれる品種を採用。口に入れた瞬間のピリリとした辛み、さわやかな香り、キレの良さに加え、病気にも強いそうです。

休耕地を活用し、手をかけずに栽培できるようにするため、味や香りだけでなく、病害虫への耐性も考慮して品種選定した

9月には、発酵ジンジャーエールを多くの人に知ってもらうため、クラウドファンディングを実施。目標額250万円を大きく上回る600万円超を集めました。ここで得た約500人の支援者が、コアなファンとなっているそうです。

人前に出る時の周東さんの正装は、和装にちょんまげです。台湾で利き酒師をしていた時、日本人だと一目でわかるよう、スーツ代わりに着物を着るようになったそうです。その人目を引く外見と、日本初の発酵ジンジャーエール醸造所という話題性、そして社会課題の解決とビジネスを両立しようとする志が評価され、製品発売前から多数のメディア取材を受けるなど注目を浴びました。

発酵ジンジャーエールはそのまま飲むだけでなく、酒の割り材としても楽しめる。写真は、ビールと組み合わせたカクテル「シャンディガフ」。

“異次元の味”をめざして

その一方で、今年3月に民家を改築して操業開始する予定だった醸造所の工事が遅れ、その間すでに発注してあった醸造設備などを保管するための費用がかかってしまうなど、予想外のトラブルが多発しました。ようやく醸造が始まったのは、4か月遅れの7月。製品化にも苦労したそうです。

「それまで自宅で試作を繰り返し、レシピは完璧にできていました。でも10リットルの鍋で造っていたレシピを、400リットルの醸造タンクの容量にあわせてかけ算すれば同じものができるわけじゃないんです。発酵時の圧力、タンク内の酸素と二酸化炭素のバランス、温度などによってかかる酵母菌へのストレスなど、発酵にはいろいろな要素があり、その要素のちょっとした違いが味や風味に大きく影響します。試作時は、かすかな硫黄のような香りとか、複雑な香味が出ていて、自分でも驚くほどおいしかった。でもそれを再現できず、どうしてもさっぱりとした“きれいすぎる味”になってしまうんです」

大容量の醸造設備にあわせてレシピを調整し、発酵条件を少しずつ変えながら改善し、今年9月、周東さんはネット通販サイトで定番商品2種類をリリースしました。はちみつが入った「honey bee」と、狭山産紅茶やカモミールを使った「northern dark snail」。評判は上々で売れ行きは好調ですが、「まだまだおいしくなる」と周東さんは意欲を見せます。

「これからもトライ&エラーを続けます。一口飲んだ瞬間に、おいしさだけでなく発酵飲料ならではの風味や雑味も感じられる、異次元の味を出したいんです。今でも十分おいしいけど、もっとおいしくなるだろうと、支援してくれる人たちは期待してくれていると思います。ファンとともに成長する醸造所であり続けたいですね」

起業当時に解決をめざした社会課題は休耕地問題だけでしたが、レシピ開発の過程で、フードロスや廃棄物、子どもの貧困、空き家問題、障がい者雇用など、周東さんはいくつもの社会課題に関わるようになりました。次回は、周東さんがそうした課題の解決とビジネスをどう両立するのか、その取組と道のりを紹介します。

今年4月、試作品を手に見沼田んぼに立つ周東さん。「古くて新しい嗜好品として、一からマーケットを作っていきたい」と語っていた
発酵ジンジャーエールはどこで買える?
商品名は「GINGER SHOOT」。定番2種類の他、特別限定醸造品も逐次リリースされる。下記通販サイトの他、12月末までは伊勢丹浦和店の屋上で毎週土・日・祝に販売中。今後、各地の小売店、飲食店、埼玉県内のイベントなどで販売予定。
※ハチミツ入りの製品は1歳未満の乳児に与えないでください。
販売サイト:しょうがのむし公式ストア (thebase.in)
成見 智子

成見 智子ライター

東京都出身のジャーナリスト。農業と食を中心テーマに取材活動をしています。日本国内の畑や田んぼ、飲食店、直売所、加工所などを訪ね、生産者や作物の紹介、6次産業化、ローカルガストロノミーなどをリポート。農業には社会課題を解決できる糸口がたくさんあり、これからまだまだ伸びる業界です♡ 趣味は旅行、外遊び、ベランダ菜園、料理、読書。コロナをきっかけに、東京近郊の自然豊かな「トカイナカ」にも注目。地域の魅力ある人・コト・モノを発信しています。 tokainaka.jp

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