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ビジネスで、社会課題を解決する。ちょんまげ醸造家が造る、発酵ジンジャーエール【「マイ・エシカル」でいこう。 6】

ビジネスで、社会課題を解決する。ちょんまげ醸造家が造る、発酵ジンジャーエール【「マイ・エシカル」でいこう。 6】

フルーツ馬糞堆肥は、隣の畑を管理する人と共同で作っている。埼玉県浦和競馬組合野田トレーニングセンターから提供される馬糞とおがくずがベース 撮影:成見智子

第6回 フードロスも、子どもの貧困も減らしたい。 ~醸造会社社長・周東孝一さん

 畑の片隅にある茶色いおがくずの山。手を近づけると、ほんのりと熱が伝わってきます。周東孝一さんが鍬を入れると、ほのかに甘い香りがして、パイナップルやレモン、バナナなどの皮が出てきました。

「これは畑に使う堆肥です。おがくずと馬糞は近くの厩舎から、果物はフルーツカット工場からもらえます。固いフルーツの皮も、この中にいる乳酸菌や土壌菌で分解されますよ」

 周東さんは昨年2月『株式会社しょうがのむし』を創業し、発酵ジンジャーエールを醸造・販売しています(前回記事参照)。果実やハーブ、スパイスなどを組み合わせてレシピを開発する過程で、この「フルーツ馬糞堆肥」を作るようになったといいます。

発酵ジンジャーエールで、フードロスも廃棄コストも削減

「良い材料を、安くたくさん仕入れるためにはどうしたらいいかと考えて、フルーツカット工場に注目しました。パイナップルは、皮を薄く切ると茶色いえくぼみたいなものが残って見た目が悪いので、加工する時はかなり厚く切ります。捨てられてしまう皮の部分から、果汁がたくさんとれると思ったんです」

実際に訪ねてみると、予想どおり、カットされたパイナップルの皮には果肉がたくさん残っていました。工場では、それを一キロあたり数十円のコストをかけて廃棄していたそうです。電解水で皮ごと洗浄・殺菌されているため、素材としても問題はありません。周東さんが無料で引き取ることを提案すると、工場側は快諾してくれました。

フルーツ馬糞堆肥から顔を出したパイナップルとレモンの皮 撮影:成見智子

FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によると、世界では食料生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されています。日本における2017年度の食料廃棄の推計量は、約612万トン。日本人1人あたり、毎日茶碗1杯分のごはんが捨てられている計算になります。余った食べ物は可燃ごみとして処分されますが、水分を含む食品は運搬や焼却の際に二酸化炭素(CO2)を排出します。

廃棄パイナップルから果汁を絞ることは、フードロスだけでなく、CO2排出の削減にもつながります。搾ったあとのかすも最後まで有効活用するため、周東さんが始めたのが堆肥づくりでした。ごみを捨てず、良質な有機肥料を作ることで、食物の再生産につながる好循環が生まれると考えたのです。工場にはパイナップルの皮以外にも、規格外品の野菜や果物がたくさんあり、周東さんはそれも引き取ることにしました。

「少し形状が悪いとか、傷があるという程度の野菜です。これが廃棄? と思ってしまうものばかりで、悲しくなりました。この現状を知った以上、自分がフードロスの削減に少しでも貢献しようと、子ども食堂やフードパントリーに連絡を取り、規格外品でも食べられる野菜を一緒に回収するようになりました。白菜やキャベツの外側の傷んだ葉など、食べられないものは堆肥に入れます。これで工場の廃棄物の量も、処理コストも減るし、困っている人たちも助かります」

 現在は工場の都合でパイナップルの皮の供給がストップしていますが、すでにパイナップルを使った商品のレシピは完成しています。

発酵ジンジャーエールの原材料の一つであるレモンも、果汁を絞ったあとの皮は堆肥に混ぜ込んでいる 撮影:成見智子

アクションを起こすと、見えなかったものが見えてくる

「言い方は悪いかもしれませんが、『社会課題の解決はお金になる』ということを広めたいんです。自分の会社が、そのモデルビジネスになれればいいと思います」

周東さんが社会課題の解決とビジネスを両立しようと本気で考えるようになったのは、19年6月、さいたま市主催の「世界を変える起業家 ビジコンinさいたま2019」に応募したことがきっかけでした。

「ビジコンでは、さいたま市で起業することの意義を盛り込みたいと思い、見沼田んぼの再生という課題解決を公言しました。フードロスや子どもの貧困などに関わるようになったのは、自分がそうしたアクションを起こしたからだと思います。水上の波紋みたいなものですね。行動することによって、他の人から意見をもらえたり、自分が誰かに影響を及ぼしたりする。そして、それに対する反応が起きたり、発見があったりして、どんどん波及していく。そのなかで、今まで見えなかった課題が見えてくることもあるんです」

 現在の醸造所は、地域の空き家物件から探した築45年の家を改装したものです。周東さんは現在、その近所にある障がい者施設の作業所との連携を進めています。

「作業所の存在は、物件の購入を決めたあとに知りました。施設の運営者を知人に紹介してもらい、見学したのですが、とても細かな作業を丁寧に、着実にこなす姿を見て、私も仕事をお願いしたいと思ったんです」

 作業所に依頼したいと考えているのは、発酵ジンジャーエールを充填したあと、ボトルにラベルを貼り、梱包する仕事。きれいにラベルが貼られ、きちんと梱包されていれば商品イメージもアップするため、とても重要な仕事です。

ボトルを機械に1本ずつセットしてラベルを貼る。作業のていねいさで商品の印象は変わる 撮影:成見智子
今年4月、醸造所となる民家の前で。改修工事を進めながらさまざまなレシピを考え、試飲会などを開いていた 撮影:成見智子

ビジネスと課題解決を一緒にやれば、社会は変わる

昨年9月、クラウドファンディングで目標額を大きく上回る成功をおさめた時に周東さんが感じたのは、「応援の力」でした。その力を受けて利益を上げていくことが自分の使命だと、周東さんは繰り返し語ります。

「発酵ジンジャーエールは未知のし好品ですから、普通は600万円も集まりませんよね。課題解決をめざしていたから、応援してくれた人がいたんだと思います。ビジネスに課題解決を絡めていくと、手間がかかることもあります。でも、発酵ジンジャーエールに興味がない人からも注目され、売り上げ増という形で返ってくる。やってみたら良かった、という経験を多くの人とシェアできたら、みんなが社会課題を一生懸命探すようになる。道徳心や啓蒙だけで行動できる人は少ないけど、お金のためなら動くという人は多いからです。どんどん課題が発見され、解決され、最後はなくなっていけばいいと思います」

見沼田んぼのショウガ畑 撮影:成見智子

 フードロス、子どもの貧困、障がい者雇用など、さまざまな課題に関わりながら製品化された発酵ジンジャーエール。公式サイトで購入すると、小型の段ボール箱に入って配送されます。その箱を開ける時、小さなサプライズと喜びがあります。瓶どうしがぶつかって割れないよう、緩衝材として巻かれたシルクの布。廃棄和服をカットしたものだと、周東さんは教えてくれました。

「廃棄和服が大量に出ていることは2年前から知っていましたが、実際に倉庫まで見に行ったのは今年1月です。新品同様のものを含め、まだまだ着られる上質の和服がたくさん出てきました。ショックでした。毎週、コンテナ倉庫がいっぱいになるほど捨てられていて、それが2年間でなにも解決されていないことを知ったのです。自分が動かなければ誰もやらない問題なのだと思い、廃棄を減らす方法を考えました」

 発酵ジンジャーエールをもっと楽しんでほしい。そして、環境に負荷をかけず、廃棄物を少しでも減らしたい。プラスチックではなく和服の端切れで作った緩衝材には、そんな周東さんの願いが詰まっていました。

2本に1本を和服生地で包み、ぶつかって割れないようになっている
廃棄和服をオゾンで殺菌し、短冊形にカットしたもの。コースターなどを作ってアップサイクルするのも楽しい 撮影:成見智子
発酵ジンジャーエールはどこで買える?
商品名は「GINGER SHOOT」。定番2種類の他、特別限定醸造品も逐次リリースされる。下記通販サイトの他、12月末までは伊勢丹浦和店の屋上で毎週土・日・祝に販売中。今後、各地の小売店、飲食店、埼玉県内のイベントなどで販売予定。
※ハチミツ入りの製品は1歳未満の乳児に与えないでください。
販売サイト:しょうがのむし公式ストア (thebase.in)
※ハチミツ入りの製品は1歳未満の乳児に与えないでください。
成見 智子

成見 智子ライター

東京都出身のジャーナリスト。農業と食を中心テーマに取材活動をしています。日本国内の畑や田んぼ、飲食店、直売所、加工所などを訪ね、生産者や作物の紹介、6次産業化、ローカルガストロノミーなどをリポート。農業には社会課題を解決できる糸口がたくさんあり、これからまだまだ伸びる業界です♡ 趣味は旅行、外遊び、ベランダ菜園、料理、読書。コロナをきっかけに、東京近郊の自然豊かな「トカイナカ」にも注目。地域の魅力ある人・コト・モノを発信しています。 tokainaka.jp

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