
藤田あみいの「懺悔日記」・26 寒い寒い氷の町の丘の上にてーたんの保育園はあった【懺悔日記・26】
妊娠出産を経て、深刻な産後うつに。
三年の月日をかけてようやく母親になった、わたしの懺悔の日記。
この連載は……
出産後、ある時期から深刻な産後うつ状態になったイラストレーター・藤田あみいさんが、娘のてーたんを育てながら3年間にわたる気持ちの揺れを克明に綴った日々の記録「懺悔日記」。その内容を、少しずつ公開していきます。
第26回 初登園、そしてアルバイト

2015年1月6日
A HAPPY NEW YEAR。2015年の始まりだ。
釧路で迎えることになるとは意外だったが、断乳を終え清々しい気分……と書きたいところだが、お乳がガッチガチになっていて猛烈に痛い。
ほっときゃ治るそうだが、お乳を適切に絞ってくれるところがあるというので行ってみた。人様に乳を搾ってもらうのはなんとも乳牛感があったが、多少楽になった。
そして、てーたんは本日初登園の日であった。
寒い寒い氷の町の丘の上にてーたんの保育園はあった。そこにいくまでにとても危険な道が2箇所くらいあって、わたしはいつも母に車に乗ること自体を心配されていた。
保育園の玄関でお別れし、自由な時間というのがはじめておとずれた。
どうしていいかわからないので、とりあえず寝てみようと思った。
なかなか寝付けない。というか心臓がドキドキしてまったく眠れない。
しょうがないのでPS3で父のやっていたゲームをはじめてみたり、ぼーっとしてみたり。でもそわそわ。
今日はプレなのでたいした時間はなかったのだが、本当にこの環境にてーたんを5時まで預けるなんて、いいのだろうか?
葛藤が続く。ものすごくもやもやするが、私ももうすぐアルバイトが始まるので、少しは気がまぎれるような気もする。
今は、てーたんとわたし、そしてみんなのために、自分が楽になる方法を模索して行くしかあるまい。てーたん、ごめんよ。本当にごめん。
2015年1月16日
三重でいわゆる授乳中にも飲める安定剤を貰ったが、断乳を機にいよいよ本格的な投薬が始まる。
釧路の医療機関にまたかかってみることにした。薬は母乳に影響のあるものを飲んでもOKになったので、がっつりと効くものが処方された。この副作用がとにかく眠い。眠すぎるのだ。
それでもなんだかんだ薬って微妙に効いている気がする。多少は気が紛れているような、そんな感覚だ。不安もひどいところまではいかない、寸止めで止めてくれている感じがする。
そしてだいぶ前から続いている腱鞘炎にもいよいよ手を打てることになった。
注射という方法が適しているらしく、それを得意とする病院に行ってみることにした。
注射はピンポイントでめちゃくちゃ痛みを感じるところにするらしく「えっここに打つんですか? 鬼ですね」と言ったら医師は笑っていた。
鬼のようだと思ったが、刺した瞬間に痛みが消えていって近代の医療レベルの高さに驚くばかりである。私の心の病気も是非とも速攻で治して欲しい。
痛みがすっかりなくなった右腕手首だが、数時間でその効果は消え、再び痛くなったので、もうどーしようもないなと思った。
2015年1月27日
3ヶ月限定でアルバイトがはじまった。初めてのショップ店員だ。
釧路は田舎なので服屋さんもそう多くはないが、自分の好きなブランドに店舗がアルバイトを募集していたので、3ヶ月限定で雇ってもらえることとなった。
お給料も東京と違って薄給ではあるが、はじめてのアパレル職ということでおしゃれに気合をいれるのも仕事の一環……!と思うと胸が躍った。昔から洋服が大好きなのだ。
働いている限りはてーたんを保育園に入れている罪悪感から解放されるので、とてもいい環境だと感じた。
仕事は得意でも不得意でもないジャンルではあったが、教えてもらうことが盛りだくさんだったので、余計なことを考えないですんだ。
完全に職場を心のリハビリに使っていて心底申し訳ないと思ったが、社会的にも役に立ってるのでまあ良いか……と安直に思うことができた。これからも頑張りたいと思う。
(次号に続く)
これまでの連載
第1回「私は生命を生み出してしまったのだと。ことの重大さに気づいた」
第15回「知らないおばさんに「子どもは希望」と言われて、泣きそうになる」
第16回「自閉症。発達障害。検索結果が頭の中から消えてくれない」
第17回「ごめんね、ごめんね、どうしてこんな母親なんだろう」
第18回「障害や病気は医者が見つけるから、お母さんはこの子を可愛がってあげて」
第19回「強いお母さんになりたい。不安で震えが止まらない」
第20回「インターネットから得た余計な知識。どれも燃やして捨てたい」
第21回「これは母親の勘なのか、それとも私が異常なのか」
第22回「悲しいことにわたしは、娘を色々と試すようになっていた」
第23回「ただひたすらに「助けて助けて」と頭が悲鳴をあげていた」
第24回「この子に何か問題があってもいいじゃないか」
第25回「断乳した翌日、信じられないことが起きた」
第26回「寒い寒い氷の町の丘の上にてーたんの保育園はあった」
第27回「昔は一人でいるのが大好きだったのに、今はとても不安でやりきれない」
第28回「育児ノイローゼというやつなのか? 本当に屈辱的で誰にも話したくない」
第29回「治療が必要なのは娘ではなく、100%お母さんの方だということになった」
第30回「私はこんなにめちゃくちゃな人間なのです、と泣けたらどんなに楽だろうか」
第31回「破壊へと道を進めているのは私そのもの。私だけが狂っている」
「懺悔日記」連載一覧

藤田あみい
イラストレーター・デザイナー・エッセイスト。
「無印良品の家」のウェブサイトで「ぜんぶ無印良品で暮らしています~三鷹の家大使の住まいレポート~」を執筆中。
2016年に同タイトルの本を出版。現在韓国語・台湾語に訳され、幅広い層の人へ向けて発信を行っている。
趣味はショッピング。夫と娘が生き甲斐。
「懺悔日記」読者へのメッセージ
妊娠・出産を得て、わたしは強迫性障害という病気になってしまいました。
強迫性障害を簡単に言うと「潔癖性」というようなものがわかりやすいと思います。
私の場合は潔癖ではなく、「『娘に障害があるのでは』という強迫観念が浮かんでくる。」というのが症状です。
愛する子どもを育てていて、一瞬でも「この子に何かあったら」と不安を感じる人は少なくないと思います。
このブログはそんな気持ちのドツボにはまってしまった私の懺悔の日記です。
「ありのままを受け入れる」そこに至ることが難しい人に向けて、少しでも気が軽くなればいいなと思い書き連ねています。
藤田あみい