先生おしえて 自動車を見て「ワンワン」……、うちの子大丈夫?【コドモのコトバ】
気になってはいるけれど、実のところよく分かってない…。 そんなアレコレについて、ずばり教えてもらう「先生おしえて」のコーナー。
心理言語学の研究者、広瀬友紀さんによる子どもの言葉の話、今回は自動車を見て「ワンワン」、という子どもの頭のなかで起こっていることを解説します!
その言い間違えには理由がある!
今月のテーマ /「ワンワン」=「犬」って、どうやって理解するの?
犬を見かけて、「ワンワンだよ!」と赤ちゃんに語りかけたら、以降、他の動物はもちろん、走る自動車まで「ワンワン」と指さすように。どうやら間違って言葉を覚えてしまった!?
これって子育てあるあるエピソードですよね。英語でも、doggieと言いながらクマもウマもクッキーモンスターも指さす例が報告されています。
「なぜ全部ワンワン?」と言いたい親御さんに、逆に質問です。
「ワンワン」って言われてそれが「動くもの」を指すのか、「動物一般」「特定の種類の動物」「お隣のポチ限定」なのか、どうやって分かれっていうの?
子どもは、周囲の人間がその言葉を使っている状況を経験しながら、その語が何を意味するかを学んでいきます。
だけどその語が、対象のどの側面・範囲を指すのかは、最初からピンポイントにはわかりません。「ワンワン」=動物一般、のように意味の範囲を広く捉えすぎた場合を「過剰拡張」といい、巷には報告例があふれています。
つまり、あって当たり前のことなのです。子ども達はやがて間違いなく、徐々に意味の範囲を狭めて正確な理解にたどり着きます。
例えば、次の日ネコを見かけてお母さんが「ニャンコだよ」と言ったら、「あ、ワンワンじゃない動物もいるんだ」という具合に、「ワンワン」の指す範囲を限定していくのです。
「ワンワンじゃない動物もいる」→「ワンワンの指す範囲はもっと狭いのだ」という推理力、あえて教わらなくてもどの子にも備わっているのがすごいですね。
逆に、狭く捉えすぎてしまう場合(過剰縮小)は? あるにはあるのですが、あまり報告されません。
子どもが「ワンワン」は隣のポチ限定だという信念のもとそのポチを指して「ワンワン」と言ったとしても、その間違いは傍から見てもわからないですから。
「ポチだけじゃないんだあ!」という気づきの瞬間は、稀少です。ぜひ目撃できますよう!
広瀬友紀
ひろせ ゆき〇東京大学大学院総合文化研究科教授。
心理言語学、特に人間が言語を理解するしくみを研究。
2017年8月より8カ月間の在外研究で、ハワイ大学に滞在中。
小2男子の母。著作に『ちいさい言語学者の冒険-子どもに学ぶことばの秘密』(岩波書店)。
こちらも読んでね!
「ウンチ」は3文字? それとも2文字?
「ば」からテンテンとったら「ぱ」!? 子どもにだけ見えている、日本語のルール
「は」にテンテンは「ば」じゃない!? 子どもの言い間違いが教えてくれること
言い間違いには理由が!「死む」「来(き)ない」からわかる、子どものアタマのなか
【コドモのコトバ】連載一覧
広瀬先生のハワイ子連れ留学日記、【ハワイとコトバ】も連載中!