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「男なの、女なの?」二者択一じゃなかった。当たり前じゃないことを当たり前に【連載・ハワイとコトバ・最終回】

2018.04.16

「Hanakoママ」で「コドモのコトバ」を連載中、心理言語学の専門家、広瀬友紀さんによる、ハワイ滞在レポート。8カ月間の在外研究で、現在、ハワイ大学に滞在中です。現地での暮らしのこと、小2の息子さんのこと、コトバの話を綴ります!


「男なの、女なの?」

アロハ〜!我々のハワイ滞在もあとわずかとなりました。この記事が公開されている頃には日本に帰国し、あたふたと新学期を迎えていることでしょう。

昨年8月にこちらの学校で新学期を迎えたときには、日本語がどうにかわかる子供たちを中心に友達を作っていたコータローですが、最後の数ヶ月では一緒に遊ぶ子の範囲がずいぶん広がったようです。

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8ヶ月間、ワイキキのビーチ、ではなく(残念!?)、このマノアの山々に見守ってきてもらいました。

普段、コータローの学校の宿題は、ハワイ大学の学生さんにチューター(家庭教師)としてお手伝いしてもらっています。

母親(私)が宿題の面倒を見ようとするとたいがい罵り合いのケンカで終わるので、とても助かっています。

来てすぐの頃からお世話になっているのが、東アジア文学・言語学部のリンさんです。ご両親がそれぞれアメリカ人と日本人なのでバイリンガル。それから、数年前までは女性として生きてきましたが今は違うようで、服装も男子のよう。

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宿題は「20分読書して所定の用紙に感想を書く」。クラスの他の子と同様にはできるわけないので、最初は大人が考えた文をまるまるコピーしていました。最近はどうにかこうにか自分で文を組み立ててみられるようこんなふうに支援してもらってます。

チューターを始めてもらってすぐの頃、コータローにこう聞かれました。「ねえ、リンさんって男なの、女なの?」 

私「んー、わかんない。」コータロー「わかんないのっ!?」……この質問に、大人が普通に答えられないという事態を彼は想定していなかったようです。それで今度は本人に直接尋ねていました(笑)。再びド直球で「ねえ、リンさんって男なの、女なの?」

確かその時のリンさんの答えは、正確に覚えていませんが「んー、どっちかな。最初はどっちだったと思う? まあでもどっちでもいいんじゃない?」というようなものでした。

そこですかさずコータロー、「じゃあ、あいのこなの?」

「あいのこねー わっはっは」とのやりとりでその会話が終わった後はコータローも「まーそういうパターンもあるのか」とさっさと了解したようで、「ポケモンGoやらせて」の話題に戻っていきました。

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しかし宿題はすぐ飽きる(笑)

リンさんみたいに女性か男性か二つに一つ、とは決められない人もいます。女性だよ、女性と結婚しているけどねっていう人もいます。
お父さんかお母さんがいないお家は知ってるけど(うちもだよ)、そのかわりにお母さんが二人だったりお父さんが二人というパターンもあるのか(こちらの大学での私の共同研究者もそうです)。恋人同士だけど両方男、とか、「アメリカに来たら新しいことばかり!」……いやいや、日本でもあなたの周りに普通にいたんだけどね(いっぱいいました)。

息子コータローは日本で暮らす予定の、今のところ、綺麗なおねーさん大好きな日本人男子。「まったく男の子は落ち着きがなくて♡単純で♡甘えん坊で♡、戦いごっこだけやってればよくて♡」と言われながら育っています。

言う方もなんやかんやで嬉しそうに言うので、表面上は単純バカって言われてても、この文脈では子どもは男の子としての自分の位置づけに肯定的な雰囲気を感じとっているだろうと思います。女の子の親御さんの「口が達者で♡いっちょまえにオシャレで♡」みたいな反応も同様かと。

(ついでに言うと、「男の子ってバカよね♡」っていう発言、私もしょっちゅう言ってはいますが、たいてい、小さいころは単純で幼稚だけどゆくゆくは女の子を知能で追い抜かすことが前提にされているような気がしてもやっとしたことありません? 女の子のお母さんに訊いてみたいです。)

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ジェンダーフリー(固定的な性役割にこだわらない)先進国のアメリカでも「生まれてくる赤ちゃんの性別はどっちでしょうパーティー」みたいなのがあるらしく、こういうケーキが定番。(もっとも最近では「生まれる前からステレオタイプにはめすぎだろ」的な、揶揄の対象になってもいるようです。)

さて、そんな彼は今後日本の中で生きていくなら、まあだいたいの場面でマジョリティに分類されることでしょう。

少なくとも当分は、バリアフリー化してない施設でも何が不自由なのかを当事者として知る必要も、性差別もしくは各種マイノリティを差別するような環境に身をおいても不利益を実感する必要もない側の人間で生きていけるかもしれません。

だけど今回、もともと本人が望んだわけでもないのに外国に連れて来られて、とはいえ日本語を話す友達もいっぱいいて、教室ご近所約半分近くがアジア系、となるとまあ疎外感を感じる余地は比較的小さくはありますが、少なくとも現地語を自由に話せないという意味では確実にアウェイな環境で8ヶ月間どうにかがんばってきました。

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だいたいいつもこんな展開(笑)

8ヶ月で急に英語が話せるようにはならなくても、言葉の決まりについては「日本語ではこうだけど英語では順番が逆だった(最初は”lunch eat”とか言ってたよね〜)」「日本語で表せない音がいっぱいある」「日本語では区別するのに英語では分けないの?水もお湯も”water”!?」などの大きなところでいくつかの気づきを体験し、異なるコトバを相対的に見る、という経験はできたようです。

コトバ以外でも同じこと。文化、価値観についても「日本とは逆だけどそれもアリ」「重大問題だと思ってたら日本の外ではそうでもなかった」「その逆」「見たことなかったパターンだけどこれもアリらしい」とか、子どもの目からたくさんのものごとのあり方を見て自分の器に取り入れてくれたなら大きな価値があったと思います。

それを、親の目を通してではありますが、皆さんとシェアできれば嬉しいと思い日記を綴ってきました。

当たり前だと思ってたことが違うわ、という事態を自然に許容できる感覚を身につけてくれたら。「自分はすぐには理解できそうにないけど他の誰かにとっては重要らしいこと」に対して柔軟な心を持ってくれたら。息子を含め、これからの世の中を作って行くすべての子供達に対してそう願っています。

間違っても、自分たちに理解できないという理由だけで他者をディスするような奴に育ったらオカンしばくぞ〜。

と、なぜか一吠えしたところで、連載・ハワイとコトバを締めくくらせていただきます。これまで長きにわたってお付き合いくださったみなさま、どうもありがとうございました。それでは マハロ〜 (←ハワイ語の「ありがとう」)!

—-お知らせ—-
実は今回ご紹介したリンさんには、LGBT一般、あるいはトランスジェンダーをとりまく問題について、特に、日本の学校や社会で、当事者の若者や子供達がどうずればもう少し生きやすくなるか、ということについてインタビューさせてもらいました。LBGTの当事者に、LBGT非当事者からのストレートな質問てんこ盛りの内容になっています。近々記事として公開いたしますので、ぜひ読んでいただけるとうれしいです。

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リンさんは今春卒業して日本で就職活動をしたいとのこと。お見知りおきを! 追記:リンさんの妹さんは日本でお笑いトリオ「ぷらんくしょん」の一員として活躍されているそうです。

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【ハワイとコトバ】連載一覧
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広瀬友紀

ひろせ ゆき〇東京大学大学院総合文化研究科教授。
心理言語学、特に人間が言語を理解するしくみを研究。
2017年8月より8カ月間の在外研究で、ハワイ大学に滞在中。
小2男子の母。著作に『ちいさい言語学者の冒険-子どもに学ぶことばの秘密』(岩波書店)。

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子どもの言葉について考察! 広瀬先生の【コドモのコトバ】も連載中!