おと~た~ん、見て~【連載・室木おすしの「娘へ。」】
この連載は……
イラストレーターで、3歳と1歳の双子の女の子のパパ、室木おすしさんによる育児イラストエッセイ。
娘が将来結婚などして(しなくても)離れていってしまうことが今から心配で、0歳のころから、娘とのあれこれを結婚式で思い出そう!と「娘素材集」を頭の中にコツコツと作っている、という室木さん。
この連載では、よりすぐりの素材をチョイス。
室木さんが娘の結婚式でスピーチとして娘に読んでいるような体でお送りします!
仕事を止める声
引き出物の紙袋に座席のネームプレートを入れておきますとのちのち間違えないのでおすすめです。
どうもこんにちは毎度新婦の父をやっております室木おすしです。
続きの手紙を読みます。
娘へ。
仕事柄、家で作業をすることが多かった私ですが、あなたたち姉妹が小さい頃はなかなか集中がしづらい仕事場でした。
仕事中部屋の外から、壊れたBGMのように流れて止み、また流れては止む
「ぼーくはプップーバスのプップー!プップー!みんなを乗せーて出発だ!プップー!」
というおもちゃの歌声。
集中力を妨げつづけたその音が、20回を超える頃には、
「早く出発しろよ!くそバス!!駄バスが!駄バス!」
と、こころの中で駄バスと罵っておりました。
また、あなたが(長女)3歳の頃、
私がドアを閉め仕事をしていると、外からこんな声がよく聞こえてきました。
「できた~ 見て~」と。
何かしらのものを作ったのでしょう。
それを母や、バアバに見てもらおうとするあなたの声です。
「わーすごーい」
と妻やバアバの感想が聞こえてきます。
何を作ったのかな?
気になる気持ちを抑えつつ、仕事に集中しようとするも、私の頭はあることを考えていました。
[すごいものを作っちゃった!お母ちゃんもバアバも褒めてくれて嬉ちいな♪]
私は娘の脳内を勝手に想像していたのです。
そして脳内の娘はこう続けます。
[お父たんにも見せてあげよう…]と。
ダメダメ、今は仕事中、そんなことを頼まれても見られないし、一度見たら長くなる。
来なくていい。来なくていいんだ。あとで見ればいいし。今はダメ。締切があるんだから。
娘の気持ちの移り変わりを勝手に想像して集中力を乱す無意味な時間。
でも…
トトトトという足音が聞こえてきて、
私が想像した通りのタイミングで
思った通りの声の大きさで、ドアの外から聞こえてくる
あなたの
「おと~た~ん 見て~」
という声。
毎回思わずニンマリとしてしまいました。
私はしぶしぶ感を出しながら(嬉しそうに出ると何度も呼ばれて仕事にならないので)ドアを開け、あなたが何を作ったのか見ました。
そこにあったものは、
ただ紙にぐるぐると線が描いてあるだけのものだったり、
とても怒っているアンパンマンが描いてあったり、
あるいはあなたが片足で立っているだけだったりしたけれど、
お父さんは本当にすごいと思ったよ。
すごいと褒めると、嬉しそうにしていました。
あなたは本当にいつだってすごかったです。
【続く】
心の披露宴は心の雅叙園の中、心の新郎上司のスピーチの長さに耐えながら
まだまだつづく。
室木おすし
イラストレーター、漫画家。長女と双子の次女・三女の父。
悲しみゴリラ川柳家元。オモコロネットラジオ「ありっちゃありアワー」パーソナリティ。
雑誌やWEBで記事や漫画の執筆をしたり、広告でイラストやGIF動画を作成したりと日々あくせく。
夜泣きのひどい次女の抱っこには定評があり、2018年には生春巻きが好きだという自分の側面にはたと気づいた。