
液体ミルクを考える フィンランド、アメリカ、シンガポール……。海外在住ママに聞いた、液体ミルク事情【特集・液体ミルクを考える・5】
特集:液体ミルクを考える
液体ミルクの各国事情。各国在住ママに聞きました!【液体ミルクVo.5】
先日、いよいよ日本でも解禁になった「乳児用液体ミルク」。液体ミルクを日常的に使う国で育児経験があるママたちからは、「便利だよ!」「欠かせません!「おすすめです!」など液体ミルクが良いという声を多く耳にします。
そこで、今回は日本以外の国で子育てをするママに各国液体ミルク事情を調査!
普段から使いわける国や日本と同様に普及していない国など、各国さまざまな事情があるようです。
フィンランドでは人工乳の約9割が液体ミルク!

フィンランドの調査に協力してくださったのは、ヘルシンキで旅行コーディネートなどをされている二人の男児のママ・トモコさんです!
―――フィンランドでは液体ミルクはどのような存在ですか?
日本の粉ミルクと同じように一般的なスーパーで普通に販売されていますよ。普通に液体ミルクと粉ミルクが隣合わせで陳列されています。アレルギーを持つ子ども用の液体ミルクなどは薬局で購入できるようです。
外出先では、ママはもちろんパパやおじいちゃん、おばあちゃんも手軽に利用できるので液体ミルクを与える父親らしき人もよく見かけます。飛行機の中や高速道路の休憩所などで利用している方もよく見ますよ。
―――ご家庭では液体ミルクを使っていましたか?
子どもがふたりいるのですが、ふたりとも液体ミルクを使いました。
ふたりとも帝王切開で出産したせいか母乳の出が悪く、子どもの体重が伸びなかったため母乳と人工ミルクの混合でした。
―――どのようなシーンで液体ミルクを使われることが多かったですか?
私の場合は日常的に利用していました。義母やほかの家族に子どもを見ていてもらうときも簡単に扱えるのでとても楽でした。
利用している人をよく見かける場所は、カフェやファミリーレストランなどで授乳室がない場所、ほかには飛行機やパーキングエリアなどの長距離移動の際でした。
粉ミルクと違い、お湯がなくても赤ちゃんにあげることができるのでとても便利でしたね。
―――実際に利用したメリット・デメリットはありますか?
メリットは、粉ミルクはお湯の準備や分量をはからないと使用できないのに対して、液体ミルクはパックを開けてすぐに使える点でとても便利。ちょっと外出したいときや、帰省のとき、息抜きがてら出かけるときなど、母親以外の人にも任せられ、簡単に子どもにあげられるのでとても重宝しました。
デメリットは、値段が粉ミルクより少し高いので、毎日使うと少し出費もある点でしょうか。
私の場合は、外出する際は液体ミルク、家では粉ミルクと使い分けていました。

―――フィンランドでは人工乳の約9割を液体ミルクが占めると聞きました。国内で発売されている液体ミルクメーカーはたくさんあるのでしょうか。
これを機に少し調べてみたのですが、液体ミルクは4種類ほどしかありませんでした。
私はNanというメーカーのものを使っていましたが、最近ではフィンランドの牛乳メーカーも自社製品を出しているようです。
―――お母さんたちの職場復帰にもひと役買っているようですね。
フィンランドでは、生後4か月から離乳食を開始するよう指導されます。あくまでも最後の決定は各家庭に任せることを前提ですが……。それには産後1年〜1年半ほどで復職する女性が多いという背景もあるのかもしれません。
液体ミルクも、簡単に扱うことができて母親以外の人でも使いやすいという点で、育児と家事の分業や、母親の職場復帰に有効に活用されていると思います。
―――液体ミルクについてのエピソードはありますか?
すでにご存知かもしれませんが、2011年の東日本大震災のとき、フィンランド在住のママたちが寄付した液体ミルクが大活躍したというニュースを見ました。このニュースに代表されるように、災害時の子どもの避難食としても液体ミルクはとても有効に活用できると思います。
ロンドンでは粉ミルクも液体ミルクも同じくらいの存在感
続いて、イギリスの液体ミルク事情は、Hanakoママwebの連載「ロンドン子育てDiary」でもおなじみのロンドン在住ママ、クラーク志織さんにおうかがいしました。
―――以前の連載記事の中でも「液体ミルクは超一般的」とありましたが、どのようなところで販売されているのでしょうか。
大型スーパー、商店街の薬局、日本でいうコンビニのようなコーナーショップなどで取り扱いがあります。粉ミルクも液体ミルクも、同じくらいの存在感で陳列されていますよ。
―――クラークさんも活用されていましたか?
私はほぼ母乳のみだったので粉ミルクも液体ミルクもあまり使用していませんでしたが、お出かけ前に搾乳する時間がなく、さらに出先でなんとなく授乳しづらいというときは、液体ミルクを使用していました。
―――周りのお友達などは液体ミルクを使われていましたか?
私の周りでは外出時には液体ミルク、家では粉ミルクと使い分けている人が多いように感じました。外で粉ミルクを作っている人を見かけたことはほとんどないように思います。

―――メジャーなメーカーや人気のメーカーなどはありますか?
Aptamil、HIPP、Cow&Gateなどのメーカーをよく見かけました。私の中では、Aptamilはちょっとおしゃれなイメージ。HIPPはオーガニックメーカー。Cow&Gateは割とリーズナブルなメーカーというイメージですね。
どのメーカーでも大きな違いはさほどないように思います。
どこも同じように、月齢別や空腹なベビー用など色々な種類を出していて、このメーカーじゃなきゃ絶対イヤだ!みたいなことはありませんでした。
―――粉ミルクと液体ミルクの違いはどんなところだと思いますか?
総じて言えることは、液体ミルクはとにかく便利!
母乳で育てていたけれど、長時間のお出かけ時に1本お守りがわりにバッグに忍ばせておくだけで、いざってときのバックアップがある!と、どこか心強く感じました。
デメリットは、粉ミルクよりも割高! でも、それくらいのデメリットしか思いつきません……。
夜だけ粉ミルクを使ったことがありますが、作る手間や泣いているのにすぐにあげられないなど、液体ミルクの方がとにかく便利だなと感じました。
―――液体ミルクエピソード、何かありますか?
液体ミルクは1本(200mL)でおおよそ1ポンドいかないくらい(100円ちょっと)なのですが、一度開封したらそのときに飲みきらないといけないので、開封したのに赤ちゃんがまさかの全く飲まないときは、「あぁ……あっけなく1ポンド消えてった〜」と思っていました。
チリもつもれば山となる。(笑)
アメリカのママたちは日常使いで大活用!
アメリカのミルク事情を教えてくれたのは、5歳の女の子ママ・ユカさん。アメリカからの一時帰国のエピソードが面白かったです!
―――アメリカでは液体ミルクが割とスタンダードだと聞きましたが、使っていましたか?
我が家は、出産時に私が高熱を出したために子どもが生まれてすぐ検査のためNICUに入れられてしまい……。その間は母乳をあげることができず、一番最初に与えられたのが液体ミルクでした。
結局、そのあとも母乳が出づらかったので、ミルクで育つことになりました。さみしい気もしたけど、夫にもあげてもらえるので楽でもありました。
あとは、メーカーのアンケートに答えたり、プロモーションに応募したり、病院にも欲しいとリクエストすると、たくさんの液体ミルクがもらえたので、最初から重宝していました。
―――普通に身近なものとして売られている感じでしょうか。
普通のスーパーや薬局など粉ミルクが売っているのと同じように置かれているので、普通に手に入れることができます。

―――液体ミルクを使うのはどんなシーンでしたか。
最初は家でもあげていましたが、よく飲む子でコストがかかるのこともあり、家では粉ミルクにしました。
外出時は、個別に放送されたニップル(乳首)を液体ミルクのボトルに付け替えて飲ませるだけなので、旅行時などにも重宝しましたよ。
ただ、アメリカで売られている粉ミルクは常温の水でも解けるので、外出先で粉ミルクを作ることが大変だと思ったこともあまりなくて。なので、液体ミルクから始めて粉ミルクに切り替えるのは、わりと早い段階だったと思います。
―――移動の際も重宝しそうですね。
日本への帰国時など長時間の移動の際には、液体ミルクをたくさん買って飛行機内に持ち込んで飲ませていた記憶があります。
―――よく使っていたメーカーなどはありますか?

我が家はSimilacというメーカーのものを使っていました。Enfamilというのも使ったことがあると思います。
―――液体ミルクについてのエピソードは何かありますか?
ちょうど自分がミルクをあげている時期の帰省時に、日本のママたちが70度以上のお湯が入った水筒を持ち歩いたり、綺麗な授乳室にお湯が出る機械があることに本当にびっくりしました。なんて大変なんだ!と。
あと、日本で液体ミルクを飲ませていたら、驚いた顔で見られたことは何度かありました。液体ミルクは少し茶色がかった色なので、ギョッとした視線を受けた記憶がハッキリあります(笑)。
もしかしてコーヒー牛乳を飲ませていると思われたのかも。
―――液体ミルクのメリットやデメリットについてどう思いますか?
容器代や付け替えるニップル(乳首)のコストを考えると、通常の粉ミルクより高いのも納得ですね。すぐ飲めるというのは大きなメリットだと思いますよ。
日本でもいよいよ解禁なんですね。とっても良いことだと思います! 選択肢のひとつとしてあれば、助かる人が絶対にいると思います!
シンガポールでは一般的には普及せず。理由は意外なことでした
シンガポールのミルク事情をおうかがいしたのはマユコさん。液体ミルクは政府の方針で普及していませんでした。
―――シンガポールでの液体ミルクはどのような存在でしょうか。
一般的に使用・販売はされていません。
シンガポールでは政府諮問機関の幼児食品販売倫理委員会というところが定めたきまりで、「そのままで飲める赤ちゃん用液体ミルクは病院の病室でのみ提供すべきで、店頭で販売はすべきでない」というものがあります。
理由を政府に問い合わせたところ、「店で買えるようになると、母乳離れが一層進むかもしれないから」とのこと。熱帯気候のシンガポールでは、開封後のミルクの保存状況が悪いと腐ってしまうなどのリスクを避けるためかと予想していたのですが……違いました。
共働きが当たり前のシンガポールでは一時期、母乳離れが進んでいました。
今でこそ母乳の長所が見直されて、病院などでも熱心に母乳の良さをお母さんたちに伝えていますが、お店で簡単に買える液体ミルクが普及すると、この動きにまたブレーキがかかると心配しているそうです。
―――病院では購入できるんでしょうか。
病院は、出産直後お母さんの健康上の理由で母乳を与えられない場合やNICUにいる赤ちゃんに液体ミルクをあげるもので、メーカーから直接調達しているようで病院に行けば買えるというものではないようです。
―――シンガポールのママたちは液体ミルクを知らない?
お店に並んでいないので、液体ミルクという選択肢があることさえ知らず、ママたちは当然のように粉ミルクを与えています。
シンガポール人のママ友にも聞いてみましたが、「なにそれ」という反応でした。
―――病院で普及している液体ミルクのメーカーは決められたメーカーだけでしょうか。
2017年にあった報道によると、国立の病院でこれまで使っていた液体ミルクに加えて、より価格が低めのミルクブランドも扱い始めたそうです。その結果、シンガポールで一般的な粉ミルクブランド全てのメーカーの液体ミルクを病院で使い始めたそうです。
これは、シンガポールの粉ミルクの価格が高すぎると消費者から怒りの声があがり、調べてみるとメーカーが高級品ばかりをシンガポール市場に出していた……ということがわかったそう。そこで政府が慌てて値段の安い商品も流通するように指導したという経緯があります。
病院で最初に飲ませたミルクをそのまま退院後も飲ませる傾向が強く、病院で高級ミルクを出すから高級ミルクを買わざるを得ないではないか!という声があがったため、安めのミルクも病院に導入したというわけですね。
―――液体ミルクに関するエピソードは何かありますか?
やっと母乳の良さについての認識が定着してきたところとはいえ、まだ授乳の姿を人に見せるのに抵抗があるようで、ママの授乳はモールなどにあるナーシングルームでするというのが普通です。
外出先や電車の中でケープをかぶって授乳という姿はあまり見られません。
母乳も出るけど外では粉ミルクという家庭は多いようなので、もしかしたらシンガポールでも液体ミルクが認められれば普及する可能性があるかもしれませんね。
オーストラリアでは存在するのに需要がない?

ズラリと並んだミルク売り場には液体ミルクはナシ!
オーストラリアのミルク情報は4歳の男子ママ・ユウコさんにうかがいました。オーストラリアには液体ミルクを禁止している法律はなさそう。でも売っていない?
―――液体ミルクはどのような存在ですか?
液体ミルクは聞いたことがないですね。
周りにも液体ミルクを使用する人はゼロで、日本と同じく粉ミルクを使用している人しか見たことがありません。一応、スーパーや薬局のミルク売り場を見てみましたが粉ミルクしか売っていないようでした。
―――現在市販されていないのは、日本と同じような理由でしょうか。
日本のように売ってはいけないという法律があるわけではないようで、数年前には量販店などで売っていたという声を聞いたことがあります。
乳児用ミルクを扱うメーカーに問い合わせたところ、メーカーAでは「以前は一般にも販売していたのだけれど、現在は病院への納品のみで、今の時点では一般販売の予定はありません」とのことでした。
病院であつかっている液体ミルクは、ヨーロッパからの輸入品だそうで値段も高そうです。
メーカーBも同じく、2年ほど前までは一般にも販売していたけれど現在はやはり病院に向けての販売のみだそうです。病院から一般に販売することもできないそうです。
一般に販売していない大きな理由は「需要がないこと」だそうで、日本のように法的な制限はないようなので、需要さえあれば将来売り出される可能性もあるかもしれませんね。
5か国の海外在住ママにおうかがいしたそれぞれの国の液体ミルク事情、いかがでしたか?

お隣の韓国では、自国で製造販売をするミルクを中心に、ここ数年で液体ミルクの需要が一気に加速し、今では粉ミルクと同じように市販されて一般的になっているそうです。
世界中でたくさんのママが活用し絶賛されている一方で、全く普及していない国もあるということがわかりました。
解禁日前日に開かれた液体ミルクの勉強会の様子をお伝えしつつ、次回は特集最後のまとめとなります!
[次回へ続く]