
お風呂上がりに突如として現れる、謎の職業「お水屋さん」【連載・室木おすしの「娘へ。」】
この連載は……
イラストレーターで、3歳と1歳の双子の女の子のパパ、室木おすしさんによる育児イラストエッセイ。
娘が将来結婚などして(しなくても)離れていってしまうことが今から心配で、0歳のころから、娘とのあれこれを結婚式で思い出そう!と「娘素材集」を頭の中にコツコツと作っている、という室木さん。
この連載では、よりすぐりの素材をチョイス。
室木さんが娘の結婚式でスピーチとして娘に読んでいるような体でお送りします!
お水屋さんを覚えていますか?

娘へ。
あれはいつだったか、あなたたち娘がまだ順番に父か母と一緒にお風呂に入っていた頃です。
お風呂から出たあとは保湿クリームを塗って、お水を飲んで、歯ブラシをする。
そんな流れがありました。
ある日のこと、お風呂上がりにお水を飲むタイミングで突如として現れた、お水屋さんを覚えていますか?
それは妻が突然やりだした謎の職業。
お水をくれるだけというシンプルなビジネスのその商売人が、とぼけた声で繰り出すお水屋さんのテーマソングは
「お水~お水~お水だよ 美味しい美味しいお水だよ」
の豊かな調べ。

なになに?と目を丸くしたあなた(長女)は、お水屋さんだ!と大興奮して叫びました。
もちろん次女と三女も大喜びで、普段全然水を飲まないことでその名を轟かせている次女も、お水屋さんの水は飲むという、名店ぶり。
次の日も次の日もお水屋さんの登場に沸く我が家なのでした。
さてそんなお水屋さんがオープンしてから2週間もすると、妻にも飽きがきたようで、お水屋さんの声色を変えるという遊びをいれてきました。
ある日は高い声で、ある日は市場の競りのようなダミ声で。
しかし純粋な3歳児、そのマイナーチェンジを見逃さないあなたは、
「あれ?今日は違うね!」
と瞬時にお水屋さんの変化に気づき、さらにはその変わった声のお水屋さんのお水は
「まずい」
と言い出したのです。
そしてたまに元に戻った正規のお水屋さんのお水に
「やっぱり本物は美味しいね」などと言うのでした。

違いのわかる娘だと私は感心しました。
きっとこの子は将来、いきつけのお店の味が変わったことにいち早く気づくだろうし、初めて食べた料理のスパイスを言い当てることができるようになるのだと思いました。
どうでしょう?
そうなりましたか?
今度またうちにきてお水屋さんのお水を飲んでいってください。
もちろん正規のお水屋さんに来てもらいますから。
【続く】
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心の披露宴は心の雅叙園の中、ホールスタッフが耳にしているイヤホンには実はずっとドナドナが流れているのだとしたら嫌だなぁと思いながら
まだまだつづく。

室木おすし
イラストレーター、漫画家。長女と双子の次女・三女の父。
悲しみゴリラ川柳家元。オモコロネットラジオ「ありっちゃありアワー」パーソナリティ。
雑誌やWEBで記事や漫画の執筆をしたり、広告でイラストやGIF動画を作成したりと日々あくせく。
夜泣きのひどい次女の抱っこには定評があり、2018年には生春巻きが好きだという自分の側面にはたと気づいた。