ぼやーと見えてくる寝姿は、まるでテトリス!?【連載・室木おすしの「娘へ。」】
この連載は……
イラストレーターで、3歳と1歳の双子の女の子のパパ、室木おすしさんによる育児イラストエッセイ。
娘が将来結婚などして(しなくても)離れていってしまうことが今から心配で、0歳のころから、娘とのあれこれを結婚式で思い出そう!と「娘素材集」を頭の中にコツコツと作っている、という室木さん。
この連載では、よりすぐりの素材をチョイス。
室木さんが娘の結婚式でスピーチとして娘に読んでいるような体でお送りします!
それはテトリスのように
娘へ。
布団を3つ並べて家族5人全員で寝ていたときのことを覚えていますか?
もう何年前のことでしょう。
とにかく騒々しい日々の中で、その瞬間はとても安らぎのある幸せな時間でした。
布団でするちょっとしたお話や、顔の上やら体の上に問答無用で乗っては転がって移動していく次女と三女。
二度とは戻れないその時間をもっとたくさん味わっておけばよかったと今思います。
その頃、私は仕事の締切に追われ、皆が寝静まってからの時間はとても貴重な時間でした。
その時間を使って、悲しいゴリラの川柳をせっせと作ったり、まだ3歳の娘の結婚式を想像して泣きながらコラムを書いたりしていたのですが、今思えば幸せな時間を削ってまで一体何をやっていたのでしょう。
というわけで、9時の就寝時、皆で一緒に布団へ入るも、数分で早々に「じゃおやすみ~」と言って仕事部屋に行く日々。
布団に少しでも長居すると睡魔が猛烈な勢いで攻めてくるので、みんなで寝る醍醐味も味わう間もなく寝室から出ていました。
少し寂しそうにしている(ような気がする)あなたに後ろ髪を引かれながら。
さてその後私も寝る時間になります。
暗闇のリビングを通り、寝室へ行くのですが、ここでいきなり寝室には入りませんでした。
目が慣れていないと、どこに誰が寝ているか全然見えないからです。
そのため暗闇のリビングで筋トレなどでもして少し時間を潰していました。
すると徐々に目が慣れていき、寝室の光景が見えてきます。
この瞬間が、私は好きでした。
ぼやーと見えてくるみんなの寝姿は、いつもバラバラのぐちゃぐちゃで今日はどこで誰が寝ているのか?というちょっとした面白さがあり、それは私にとって一日の最後のエンタメだったからです。
しかしどういうわけか割と余裕のある布団スペースを、皆で結託したかのように絶妙に埋め、毎度私の寝るちょうどいいスペースがないことがしょっちゅうでした。
ど下手くそな奴がやったテトリスを途中で交代されたような状態です。そのため私はよくテトリスの使い勝手良くないピースの姿勢で無理やり寝ていました。
といってもあなたは寝ていたわけだからそんなことは知らないでしょうが。
そしてたまにくるテトリス棒で寝られるチャンスはテトリス以上の醍醐味があったということをこの場を借りて申し上げます。
いつしか皆きっちりと寝られるようになりました。
さらには5人一緒に寝ることもなくなり、それこそまるでテトリスが揃ったように、あの一日の最後のエンタメはパッと消えてしました。
あなたたちは日々すごい勢いで変化していきました。
大人の私たち夫婦は追いつけないくらい。
たまに思い出しては懐かしく思います。
でも少なからず私も変化していたように思うのです。
あの日テトリスのように寝ていたあなたたちのそばにはいつでも、テトリスの使い勝手の悪いピースの姿勢で寝ている私がいた。
そう思えばいつだって寂しくなんかないですね。
このあなたの晴れの日に、私は今ここにいる。
それがとても嬉しいです。
結婚おめでとう。
あ、手紙はまだ続きます。
【続く】
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心の披露宴は心の雅叙園の中、会場のシャンデリアを見て、あれが落ちてきたらやばくない?などというどうでもいいもしもの話をしている新郎の学生時代の友達をやれやれと思いながら
まだまだつづく。
室木おすし
イラストレーター、漫画家。長女と双子の次女・三女の父。
悲しみゴリラ川柳家元。オモコロネットラジオ「ありっちゃありアワー」パーソナリティ。
雑誌やWEBで記事や漫画の執筆をしたり、広告でイラストやGIF動画を作成したりと日々あくせく。
夜泣きのひどい次女の抱っこには定評があり、2018年には生春巻きが好きだという自分の側面にはたと気づいた。