おでかけレポート 子どもたちに「初めて見る世界の驚き」を。plaplaxが伝える、いわさきちひろの世界
いわさきちひろ生誕100年「Life展」あそぶ plaplax展覧会 &
plaplax(プラプラックス)アーティストトークレポート
いわさきちひろが生まれて100年目にあたる今年2018年。
東京と長野・安曇野にある、ちひろ美術館ではさまざまな分野で活躍する7組の作家といわさきちひろがコラボレーションする「Life展」が開催されています。
そのひとつが、現在、ちひろ美術館・東京で開催中の「あそぶ plaplax」。いわさきちひろの世界に入って、“あそぶ“ことそのものがアートという、なんとも楽しい展覧会におじゃましてきました!
plaplax(プラプラックス)×いわさきちひろ
いわさきちひろと言えば、その生涯をかけて子どもを描き続けたことで有名です。
ひと目見ただけで記憶に残る、ふわりとしたタッチで描かれた表情豊かな子どもの絵は、多くの人が一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
そんなちひろの絵と「あそぶ」作品を作った、今回のコラボレーション作家は「plaplax(以下、プラプラックス)」。
観客参加型のアート形態である“インタラクティブアート”の分野で活躍する一方、公共空間や商業スペース、イベントの空間演出や展示造形を手がけるなど国内外問わず幅広く活動をするアートユニットです。
今回、「あそぶ plaplax」をもっと楽しむために、9月8日に開かれたプラプラックスのアーティストトークに参加して来ました。
プラプラックスの近森基さん、小原藍さんによる展覧会の裏話とともに「Life展」あそぶ plaplax をご紹介します!
1.「絵の具の足あと」
白い床の上を歩くと、足元にカラフルなにじみ(※1)が広がり、動きに合わせてピアノの音色が響く仕掛けの「絵の具の足あと」。
キャンバスの上を駆け回る子どもたちはたくさんの色や心地の良い音を楽しんでいました。
プラプラックスさんが裏技として教えてくれたのは、同じところに立ち続けているとどうなるかというところ。ぜひ美術館で試してみてください!
【プラプラックスのコメント】
ふわっと描かれているちひろさんの絵ですが、実は試し塗りを何度もされるというように前段階にかなりの実験をされています。
そんなちひろさんの絵の具の試し塗りをいろいろと見せていただくうちに、試し塗りだけでも十分にちひろさんの世界を見せることができるのではないかと思いました。
そして出てきたのが、ちひろさんらしい8つの色。
これを突き詰めていこうとなったんですが、ただ色を重ねていくだけではなくもうひとつ何かが欲しいな〜と考えていたときに、8色の色を並べていくことが音楽的な気がしたんですね。
そこで、たまたまこの時期にお会いした音楽家の高見澤淳子さんが「ピアノの減衰音を聞く」という内容のアルバムを作られていて、それを聞いて「あ、これだ」と。作品の音楽の制作をお願いしました。
ピアノは鍵盤を押すと、もうその音については手出しできず、音に任せるしかないんです。音はだんだん消えていく…つまり減衰していきます。
そして絵の具も一滴垂らすと、そんなところまで広がっちゃうのー!?というようにどんどんにじみ、コントロールが効かなくなります。
ピアノの減衰と絵の具がにじんでいくことを重ね合わせていったら、より空間的にちひろさんのにじみが表現できそうだと思いました。
2.「絵のなかの子どもたち」
絵本の中に自分が入ったような気分が味わえる「絵のなかの子どもたち」では、いろいろなポーズをとる子どもたち大人たちがたくさん! ちひろの絵の中に、自分のシルエットが登場します。
【プラプラックスのコメント】
絵本を読んでいるときはその中に入り込むことができるのですが、展覧会というとどうしてもじっくりひとつの絵本を読むという場になりにくいので、もう少し空間の中で絵の中に入り込むということができないだろうかと考えて進めました。
等身大で絵の中に入る、ということをちひろさんの作品の中でできたら面白いと考えていたのですが、その時点ですでに白抜き(※2)の中に自分が投影される構想はありました。
でも、作っていくうちに「待てよ?白抜きと言ってもにじみ方やぼやかし方が絵によって違うぞ。同じような効果で白抜きにしただけでは、絵のなかに入ることにはならないぞ……」と気づきました。
例えばもみ紙(※3)の絵ではシルエットを直線的なもので表したり、繊細でかなりぼやかしたものがあったりと、絵によって白抜きの輪郭を変化させることで自分自身が絵の一部になっていると感じるように作っていきました。
3.「画机の上のあそび場」
机の上の画材などに、指でそっと触れてみるとちひろの絵が動きだす「画机の上のあそび場」は、美術館で「ちひろのアトリエ」として展示されている画机をモチーフに作られました。
印象的だったのが、大人の方が楽しまれている様子の多かったこと!
触れることでちひろの絵が動き始めると誰もが笑顔になる展示です。
【プラプラックスのコメント】
ちひろさんの作品というのは、一度もアニメーション化されたことがありません。
そんなちひろんさんの絵を動かすことができたら……ということを考えました。でも基本的にはちひろさんの絵に手は加えません。
手を加えなくても、角度や位置を動かしていくだけで、ちひろさんが描かれた躍動感ある世界が生命感を持ったものとして表現できるのではないかと考えたからです。
ちひろさんが、子どもたちのあそぶ姿を想像したり、実際に隣でちひろさんのお子さんがあそぶところを見ながら作品を生み出した場所が、まさにこの机の上だったのだと、だんだんとその状況が思い描かれてきました。
そして、その状況を作ることこそが、頭のなかで空想していることを表現するということにつながるんじゃないかと思ったんです。
画材などはできるだけ同じものや似たものを集め、机は実際のアトリエの机を採寸しているので、スケール感やこういうフィールドの上で作品が生み出されているんだという感じを持っていただければと思います。
4.「絵本を見るための遊具」
ちひろの絵本の中に入って体で絵本を楽しむ「絵本を見るための遊具」。
「となりにきたこ」「ぽちのきたうみ」「ことりのくるひ」の3冊をテーマに作られています。
さまざまな仕掛けは、実際に登って、のぞいて、くぐって確認してください!
【プラプラックスのコメント】
例えば、絵によってはとても広がりのあるものだとか、もっと空間の中で見ることができるんじゃないかとか、すごく低い姿勢で見た方が絵の世界観に入っていけるんじゃないかとか。
絵本は印刷されたものを完成としているのですが、実際、原画ではその絵や本の外側にも世界がつながっています。
そういったものも表現できると面白いなと思いました。
のぞいて間近に見えたり、くぐり抜けてぶつかったり……
絵にグッと近づく状況に自分を置くことで絵本の中の世界観に関わることができて、もっと身体的に見られるんじゃないかという考えから“遊具”という形になりました。
ここでは空間やカラダをつかうことで、それぞれの絵本の特徴となる場面を、体験的に味わってほしいと思います。
たとえば、「ことりのくるひ」をテーマにしたスペースでは、ちいちゃんの気持ちをどんな形の遊具にしていくか、設計やデザインは「アラキ+ササキアーキテクツ」のみなさんにご協力いただいて、一緒に考えました。
のぞく穴によって、ひとつの部屋がいろんなカタチに見えるということを体験して欲しいです。
また、「ぽちのきたうみ」のスペースではちいちゃんだけが見える角度、ぽちだけが見える角度があります。
そして駆けよって出会うところが海という表現になっています。
最後に……
【プラプラックスのコメント】
今回の展覧会では、入り口の真ん中にどうしてもちひろさんの言葉が欲しいですといって学芸員さんに探していただいたら、すごく良いのが出てきて。
「雪のなかで(1972年)」という詩に綴られた一節なんですが
「こどもは
はじめて知るこの世のふしぎに
いつもその
まぁるいひとみを輝かす」
という言葉です。
ぼくらが今回の展示を体験的なものにしたいと思ったのは、“初めて見る世界の驚き”みたいなものを子どもたちになんとか届けたいなと思ったからなんです。なので、この詩の言葉が本当にピッタリくる言葉だと思いました。
体験することによって得られる輝きみたいなものが、まさにちひろさんが書かれた詩の中に表現されていると思います。
こういうことを、今回ぼくらも……引き継ぐというとおこがましいですが、何とか伝えることができたらということはすごく感じていたことです。
人が体験することで作品が完成する展覧会「あそぶ plaplax」。ちひろの絵本の中に入ってあそぶ子どもたちは、絵本の中のはじめての世界で楽しそうにはしゃいでいました。
※2白抜き……白い紙の地色を残して、その周りに色を塗ることで、人物や物の形を表現する技法
※3もみ紙……紙をくしゃっと揉んだ上に色を塗ること。紙のシワが凹凸になって、絵に立体感が生まれます。
【いわさきちひろ生誕100年「Life展」 あそぶ plaplax】
日時:開催中〜10月28日(日)
開館時間:10:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(祝休日は開館、翌平日休館)
会場:ちひろ美術館・東京(東京都練馬区下石神井4-7-2)西武新宿線上井草駅より徒歩7分
入館料:大人800円、高校生以下無料
Tel. 03-3995-0612