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子どもとお母さんの代弁をすることが、私の仕事です【小児科医・高橋孝雄さんインタビュー・前編】

2018.10.29

「小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て」著者
高橋孝雄先生インタビュー(前編)

発売1か月で早くも3刷の書籍『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』が話題です。著者は、慶應義塾大学医学部小児科で医師、教授として活躍され、日本小児科学会の会長も務める高橋孝雄先生です。

36年にわたり、小児科医としてたくさんの子どもたちに接して来られた高橋先生の言葉はとても説得力があり、子育ての悩みをフッと軽くしてくれるようなものばかり。ユーモアに富んだわかりやすいたとえ話は必読です!

高橋先生に、本を書かれた思いや伝えたいメッセージなどうかがいました。

小児科医は子どもとお母さんの代弁者

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―――小児科のお医者さんが手掛けた育児書、というのはこれまであまり見かけたことがなかったのですが、今回、育児書を書かれた理由を教えていただけますか?

そうですね、小児科医の視点で書かれた子育て本は、そんなにないかもしれません。

大きな声では言えませんが、私自身は育児に参加したとは言えないですし、子どもを産んだ経験もない(笑)。

でも、例えば野球のコーチが、自分にはできなくても、投げ方や打ち方を若い選手に教えるように、自分にはできなかったことでも伝えられることがあれば、それを伝えるのも仕事かなと思い。初老の男性が子育て本を出すというのも、それはそれで面白いんじゃないかと。

それから、私の仕事、つまり小児科医が子どもたちの「代弁者」だっていうこととも関係しています。代弁者であることは、ずっと昔から小児科医の大切な仕事のひとつとされてきたんですよ。英語では「アドボケート」と言います。

代弁というといろいろなことが思い浮かびますが、36年間の小児科医人生を経て、私が考える代弁者の仕事とは「思いをくみ取る」ということです。

例えば子どもが怪我をして泣いているとします。

「子どもが怪我してます!血が出て痛そうです!」っていうのは代弁じゃない。
「痛いね~ お母さんはいないし、悲しくて泣いてるんだね」と子どもに声をかける。そうすると子どもは少し安心しますよね。

本人にもよくわからない。でも、何かつらいこと、困っていることがある時、その思いをくみ取って、「こういうことなんだね?」と本人に返す。その子が「そうなんだよ」って感じたら、思いをうまく代弁したことになります。

小児科医が子どもの代弁者になる場面は、病気で苦しんでいる場合はもちろん、それ以外のことでも多くあります。寂しさ、喜び、迷い、あらゆる思いをくみ取ることが大切です。

たとえ虐待を受けているとしても、子どもは、それを事実として認識し、言葉で表すことはしません。何が問題なのかもわからないんです。親に大事にされていない、という悲痛、孤独、絶望があるはずなのですが。そういう子どもの思いをくみ取って、本人に「こういうことだね?」って寄り添ってみるのも小児科医の仕事です。

さらに小児科医は、お母さんの代弁者でもあります。お母さん自身が、何が問題かをうまく理解できずに、漠然とした不安を持っておられることも多いのです。虐待の加害者である親に「あなたにも、こんな事情があるんじゃないかな」と寄り添ってみる。これが真の代弁者だと思うのです。それが私たちの仕事です。子どもを治したければ、お母さんを治しなさい、と小児科医はまず教えられます。お母さんの思いをくみ取ることも大切なことです。

小児科医としてこれまでに元気な子や病気の子、あらゆる子どもたちを何万人もみてきました。その経験を踏まえて、子どもたちが感じていること、お母さんが思い悩んでいることを、代弁者としてくみ取って、それを多くの方々に伝える。それがこの本を書いた大きな目的です。

――――だとすれば、読者として想定されているのはお母さんだけではない?

子どもやお母さんの代弁者として、世の中の人々に「ちょっと聞いて!」と。社会に向けて物申す……というのが一番当たっているかもしれません。

その意味では、将来、親になる若者、既に子育てを終えた高齢者の方々にも読んで頂けたらいいな、と思っています。あと、特に子どもの教育にかかわる方々にも。

「そういうことだったのか。子どもっていいな……」と多くの方に感じて頂ければいいのですが。

一緒に手をつないで帰るだけでいい

―――ハナコママの読者層は働くママが多いのですが、高橋先生から見て、この36年間の中で、働くママたちに変化はありますか?

働いているお母さんが増えてきたという事実がありますよね。昔は働いていないお母さんが圧倒的多数でした。ただ結局のところ、子どもはそうは変わってないと思います。

本にも書きましたが、1日中ずっとお子さんといるのと、保育園に預けて仕事をして、子どもと一緒の時間は短かいのと。どちらもいいんじゃないですか。和食と洋食くらいの差しかないような気がします

―――本に書かれていた「時間の長短ではなく、濃い時間を共有できることが大切」という部分は、ハナコママの読者にはホッとする言葉だと思います。

そう、時間の長短は関係ありません。さらに、短時間だからといって「いま、ちゃんと濃い時間になってるかな?」と心配し、濃くしようと努力する必要もないんですよ。一緒にいるだけで、何もしなくても、会えない時間があった分、一緒の時間はじわーっと濃くなりますから。

お腹が減れば自然といっぱい食べるし、美味しく食べるじゃないですか。それと同じです。
保育園から一緒に手をつないで帰るだけでも十分子どもは満たされます。お母さんやお父さんと子どもが手をつないでいる姿って、本当にいいですね。しあわせの象徴です。

もし保育園にお迎えに行くのが最後になったとしても、申し訳ないと思う必要はない。みんな帰っちゃって、なんで自分だけ?っていう風には、子どもはたぶん思わない。あるいは、そう思わせないようにすればいい。長く待っていた分、お母さんと会えた瞬間、よろこび倍増でしょう。

本にも書いたのですが、私が育った家庭環境は、母子家庭にくわえて経済的にも苦しかったはずなのです。でも、寂しい、貧乏だ、などと感じた記憶がないんです。

母がね、自分の手のひらを開いて見せて、「真ん中がくぼんでいて、お水がたまりそうでしょ」と言ったことがありました。「使えば使うほど、お金が入ってくる、ってことらしいよ。この手があれば大丈夫!」と。

そんなわけないって子ども心に思いましたが、母が明るく言うので、どこか安心していたんだと思います。現実はさておき、子どもが物事をポジティブにとらえることができれば、一緒の時間も濃くなるのかなぁと思います。

遺伝子が決めたシナリオには余白がある

―――本の内容について伺いたいのですが。第1章に、「『トンビがタカを産む』は遺伝的にありえません」とありました。

ありえないですね。人間が猿を生まないのと一緒ですよ。猿は猿!トンビはトンビ!です。

―――たしかにそうですよね(笑)、でもそれがちょっと衝撃で。環境要因よりも遺伝要因で決まる性質・性格が大きいと聞くと、少しネガティブですが、あきらめのような、ママの遺伝子でゴメン!という気持ちにもなってしまいます。

努力してもムダ、というふうには受け取らないでほしいです。本の中でも強調した“遺伝子のシナリオには余白がある”“遺伝子の働きには揺らぎがある”というのがポイントです。余白や揺らぎがあるからこそ、人類はここまでの進化を遂げてきたし、一人ひとりの努力が報われることも多いのです。環境の力は遺伝子の力と同じように、本当にすごいんです。

―――書籍の中には「遺伝子が決めた個性」というフレーズもありました。

意外なことに、個性というものは遺伝子で大方が決められています。赤ちゃんのころからすでに備わっているものなのですが、一方、自分でもなかなか見ることのできない秘密の暗号みたいなものです。そこがいいところですね。

苦手なことも得意なことも、ある程度は個性として決まっている。好きなこと、得意なことに時間をかけて人生を楽しむのがいいと思うんです。個性にも環境に左右されて育つ面がある。つまり、遺伝子のシナリオにある余白ですが、それは子ども自身のために用意された余白だから、親が勝手に落書きしない方がいい。

だから、親が嫌いで苦手で苦労した英語を、子どもに無理やり勉強させるなと。自分が果たせなかったことを子どもに託しちゃダメです。逆に、もし子どもに英語の才能があるのなら、親の自分にもあるはずです。まずは自分が英語を勉強すればいいと思いますよ(笑)。

【後半に続く】

高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授。医学博士。専門は小児科一般と小児神経。1957年、8月生まれ。1982年慶応義塾大学医学部卒業。1988年から米国マサチューセッツ総合病院小児神経科に勤務、ハーバード大学医学部の神経学講師も勤める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で、医師、教授として活躍している。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。
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『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』
高橋孝雄 著
マガジンハウス
定価:1,404円 (税込)
https://magazineworld.jp/books/paper/3013/

写真〇青木和義 取材・文〇木村一実