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人間は「遺伝子の力」と「環境の力」から作られています【小児科医・高橋孝雄さんインタビュー・後編】

2018.11.01

「小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て」著者
高橋孝雄先生インタビュー(後編)

発売1か月で早くも3刷の書籍『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』が話題です。著者は、慶應義塾大学医学部小児科で医師、教授として活躍され、日本小児科学会の会長も務める高橋孝雄先生です。

36年にわたり、小児科医としてたくさんの子どもたちに接して来られた高橋先生の言葉はとても説得力があり、子育ての悩みをフッと軽くしてくれるようなものばかり。ユーモアに富んだわかりやすいたとえ話は必読です!

前半では、本を書かれた理由や伝えたいメッセージについてうかがいました。後半では、長年小児科医を続けてきて、見えてきたお母さんたちの変化についてうかがいました。

今と昔の子育ての違いとは?

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―――本の中で、最近の子育て問題である「小1プロブレム」、「保活」などにも触れられていました。子育てって、環境や年代によっても違うと思うんですが、今の子育てと昔の子育て、そんなに違うものなんですか?

昔は、子どもに対して「生まれつきやん!」という言い方がありましたよね? ちょっとしたおおらかさというか、「生まれ持った個性」っていう考え方があったと思うんです。でも、最近はあまり言わなくなりましたよね。

―――そう言われればそうですね。今は、「生まれつき」って言ってはいけないみたいな雰囲気もありますね。“遺伝子”とか“生まれつき”ということばは、刻印を押すようなものでその子の可能性を狭めちゃうみたいな雰囲気になっているかもしれません。

そう。でも、人間というのは“遺伝子の力”と“環境の力”のふたつが作るものなんですよ。それが、最近では教育環境が重要視されて、“有益な”情報が押し寄せてきて、“環境の力”が強まっています。そのなかでも一番目立つのがインターネット情報です。

子どもたちはあんまり変わってないのに、「これをやろう!」という情報が押し寄せてきて、「やればなんでもできる!」と無茶な努力を続けさせる傾向にあります。たしかに環境の力、つまり教育や努力で達成できることはたくさんありますが、環境の影響を過大評価しているように感じます。ここが、今と昔の子育ての違いだと思います。

たとえば最近は、子どもが生まれる前から環境整備が叫ばれていますよね。胎児の環境をうまく整えれば良い子が生まれ、そこを間違えると取り返しのつかないことに。それは、お母さんのせい、みたいな風潮がありませんか? そんなことはないですよ。ありえない!

子宮内環境というものはあります。でも、それは基本的には遺伝子が整えているものです。お腹の中の赤ちゃんの状態が、妊娠中のお母さんがどう過ごしているかによって大きく左右されてしまうとしたら、危なっかしくてしょうがないですよね。

“遺伝子の力”というのは、人間に限らずすべての生物が種をつないできたメカニズム。億年単位の昔からバシッ!と決まっていて、そう簡単には揺るがない。鉄壁です。

妊娠中の食事はとても大事な“環境”です。お母さんの愛情もかけがえのない環境。でも、「これさえすれば大丈夫」「これをしないとダメ、さもないと……」といった不安をあおるような情報には振り回されないほうがいいと思います。

―――自分の行動がすべて子どもに影響してしまうと思うとプレッシャーですが、お母さんがどうあれ、基本的には遺伝子が整えてくれる、と思えば気持ちは楽になります。

育児環境が大切だ! 教育環境は大事だ! と反論する人はいます。大事じゃないと言うつもりは毛頭ありません。家庭も学校も大事です。でも、環境の力だけで、子どもたちの人生が取り返しのつかないことになる、という心配は無用です。

結局のところ、「自分は自分。このままがいいなぁ」と子どもが感じてくれたら、それでだけで十分ではないでしょうか。遺伝子の決めたシナリオには、だれもがそう感じられるだけの幸福なストーリーが織り込まれているはずです。

子育ては、ちょっとした失敗を重ねることがコツ

―――本の中に「レストランで注文を決められない男子が増えている」というエピソードがでてきました。一緒に行った男子がそんなんだったら嫌だわー!と思ったのですが……ふと、子どもと一緒にレストランに行ったときを想像したら、「これにしたら?」「オレンジジュースで良いよね?」と、ヤバイ!私も勝手に決めてる!と思いました。

まあ、シチュエーションによってはそういうこともあっていいと思うんですが、子どもに決めさせて、結果として失敗しても、それはそれで大切なことだと思います。

私が子どものとき、家族で初めてピザを食べに行ったことがありました。「これな~に?」って、ちっちゃなケチャップと思ってタバスコをどっさりかけたんです。母はなんで止めなかったのか。結果、せっかくのピザを台無しにした。でも、みんな笑っていたのを覚えています。

お母さんもちっちゃな失敗をするのは良いことですよね。あっ、しまった!っていうのを大切にする。子どもに害がない程度の失敗であれば。小さな失敗を積み重ねたお母さんの方が、他のお母さんから相談されたときに、私もあるある!でもうちの子大丈夫だった、って話せますよね。

説得力のあるひとの話って、失敗談が多くありませんか? 成功しか経験していない、そう信じているひとの話は、ただの自慢話。説得力はないですね。小さな失敗を重ねたお母さんこそ子育てのベテランとして後輩ママの力になれるのでは。

だいたい二人目の子育てのほうがうまくいくじゃないですか。一人目でやりすぎちゃった感を体験して、二人目はゆるく育てる。二人目の方が育てやすいし子どもも楽だったりするかもしれませんね(笑)。

幼い子どもにも、母性や父性が備わっている

―――本の最後に病気のお子さんたちの話が出てきます。先生も「懸命に生きた証は、そのまま子育てに悩むおかあさん、おとうさんたちへのメッセージになると思う」と書かれているように、どれもとても印象に残るものでした。

病気の子どもたちの話はショックだと思いますが、全て実話です。

読み手によって感じ取るメッセージは違うと思いますが、子どもたちはみんな強いということをお伝えしたかったんです。遺伝子の力の確かさを実感して頂きたくて。

子どもたちが潜在的に持っている母性や父性の話も出てきますが、これらも遺伝子の力なんですよ。

―――幼くても母性や父性はしっかりあるんですね。

遺伝子には母性も父性も組み込まれています。そのスイッチが ONになるか、母性や父性がふくらむかどうか。それは環境変化がきっかけだったりするんです。たとえば、子どもが生まれるということ、つまり育児の必要性が母性や父性を大きく膨らますきっかけになります。

幼いころに父親を亡くしたのですが、うちの母親は母性だけでなく父性のスイッチも入っていたと思います。逆に、お母さんがいなくなっちゃうとお父さんのなかで母性のスイッチがONになったり。いろんなパターンがあるはず。働くお母さんは母性も強いが、父性も頑張っているかもしれませんね。

子どもも成長の過程で、母性や父性を膨らませていきます。特に、いろいろな遺伝子のスイッチが激しく点滅する思春期になると、その兆候は明らかになります。お母さんは戸惑うかもしれませんがこれも遺伝子の力。

神秘的で面白いものだと思います。


「子どもがしあわせなら……それだけでみんな、しあわせ」

本の最初に出てくる言葉です。

子育てがうまくいかずにイライラしたり、ネットやSNSの情報に振り回されて焦ったり。そんなときは、この言葉に立ち戻りたいと思いました。

さて、今回『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』の出版を記念して、Hanakoママウェブでは、著書のなかから一部をウェブで公開することになりました。

子どもとお母さんの「代弁者」である高橋先生の言葉は、きっと子育てに迷いを感じたときに、寄り添ってくれるものになるはず。遺伝子が持つ神秘的なエピソードは、子育てにプレッシャーを感じているママの気持ちを軽くしてくれそうです。

連載は近日中にスタートします。どうぞお楽しみに!

高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授。医学博士。専門は小児科一般と小児神経。1957年、8月生まれ。1982年慶応義塾大学医学部卒業。1988年から米国マサチューセッツ総合病院小児神経科に勤務、ハーバード大学医学部の神経学講師も勤める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で、医師、教授として活躍している。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。
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『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』
高橋孝雄 著
マガジンハウス
定価:1,404円 (税込)
https://magazineworld.jp/books/paper/3013/

写真〇青木和義 取材・文〇木村一実