実は、あの時の石があるんです。(どよめく会場)【連載・室木おすしの「娘へ。」】
この連載は……
イラストレーターで、3歳と1歳の双子の女の子のパパ、室木おすしさんによる育児イラストエッセイ。
娘が将来結婚などして(しなくても)離れていってしまうことが今から心配で、0歳のころから、娘とのあれこれを結婚式で思い出そう!と「娘素材集」を頭の中にコツコツと作っている、という室木さん。
この連載では、よりすぐりの素材をチョイス。
室木さんが娘の結婚式でスピーチとして娘に読んでいるような体でお送りします!
その石は時を越えて
娘へ。
あなたは河原へ行った帰りに石を拾うというのを、なにかルーティンのようにしていた時期がありました。
丸い石。
ツルツルの石。
ガラスの破片(あぶない!)
パチンコ玉(レア)
そんな折、あなたがすごい石を発見した!という表情を浮かべ、屈んだその先にあったその石は、赤と茶と白が入り乱れ、ともするとお菓子のかけらような見た目で、プレミアムな佇まいにもかかわらずそれを大きく主張することもない、良い塩梅の石でした。
もちろん拾い上げたあなたは興奮気味にそれを見つめると、どや!と言わんばかりに私に見せてくるのです。
私はひとつこっくりと頷きました。
なんの頷きなのかさっぱりわかりませんでしたが、とにかく頷きました。
しばらくその石を持っていたあなたですが、まあまあかさばる事もあり、私に持っていてと頼んできました。
捨てちゃえばと提案してみましたが、
「ヤダ…」と。
その上「は?何言ってんのこの人?」という表情でこちらを見るので仕方なくポケットにしまったものです。
それから数週間が過ぎました。
私は仕事の打ち合わせで都内へ出かけておりました。
ふと左のポケットに手を入れたところ、手に当たる何か。
取り出してみるとその石でした。ああ、そういやあれ以来ずっと持っていたのかと。しかしなんとなく捨てることもできずそのままポケットにしまいました。
もう20年以上も昔の話です。
さて今、私の左ポケットには何が入っているでしょうか?
……そうです。
実はあの時の石があるんです。(どよめく会場)
なんとお父さんは、あれからずっと、なんとなく捨てられずずっとこの石を持ち続けたのです。
時には携帯と間違えて取り出したこともあります。
Suicaと間違えて思い切り自動改札にタッチして破壊しかけたこともあります。
この石、覚えていますか?
(嘘でしょ… というような 会場)
まるでこの石はタイムマシーンのように、あの時の河原とつながっているような気がします。
石を覗けば、あの時、すごい石を発見した!という表情を浮かべ屈んで覗いているあなたがほら……。
……今日は何の日だかわかる?(石に)
わからないよね。
そう、そっちの今日は幼稚園がお休みなの。
こっちは今日とってもおめでたい日なんだよ。
ケーキ?
そうだね。おめでたい日だからケーキも食べられるね。
あなたは
こんなに立派になったよ。
よかったね。
おめでとう。
(石に語りかけているヤバいじじいという絵面に混乱する会場)
【続く】
________________________________________
心の披露宴は心の雅叙園の中、受付の芳名帳に書いた名前をもうちょっと上手に書きたかったなどと思いつつ、
まだまだつづく。
室木おすし
イラストレーター、漫画家。長女と双子の次女・三女の父。
悲しみゴリラ川柳家元。オモコロネットラジオ「ありっちゃありアワー」パーソナリティ。
雑誌やWEBで記事や漫画の執筆をしたり、広告でイラストやGIF動画を作成したりと日々あくせく。
夜泣きのひどい次女の抱っこには定評があり、2018年には生春巻きが好きだという自分の側面にはたと気づいた。