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遺伝で決められた「苦手なこと」も、努力で克服できる余地はあります【小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て・3】

2018.11.19

話題の書籍『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』を
ウェブで一部公開します!

発売1か月で早くも3刷の書籍『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』が話題です。著者は、慶應義塾大学医学部小児科で医師、教授として活躍され、日本小児学会の会長も務める高橋孝雄先生です。

Hanakoママウェブでは、この書籍の出版を記念して、本の一部をウェブで公開することになりました。

子どもとお母さんの「代弁者」である高橋先生の言葉は、きっと子育てに迷いを感じたときに、寄り添ってくれるものになるはず。遺伝子が持つ神秘的なエピソードは、子育てにプレッシャーを感じているママの気持ちを軽くしてくれそうです。

高橋先生のインタビューはこちら:https://hanakomama.jp/topics/58740/
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(書籍『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』 第一章より)

遺伝で決められた「苦手なこと」も、努力で克服できる余地はあります。

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幼稚園、保育園のころは、お友だちとふつうに遊べていたし、お遊戯会や運動会もこなせていた。それなのに小学校に入って教科別の勉強が始まるとつまずいてしまう子どもがいます。知能が低いというよりは、極端に苦手な科目がある、という場合も多いようです。「国語の教科書を音読しなさい」と言われても、なかなか文字が追えない。抑揚をつけて読めない。漢字が正しく書けない。足し算や引き算が理解できない。九九が憶えられない。図形が理解できないなど。

おかあさんは、小学校に入ったとたんにわが子にいったい何が起こったのか、とびっくりしてしまいますよね。しかし、これもあるていどは遺伝子が決めていることなのです。音読ができない、簡単な四則計算ができないとなると「うちの子は頭が悪いの? 知能が低いから?」「ほかの子より努力が足りないの?」と考えてしまうかもしれませんが、そうともかぎらないのです。

ここでは、「遺伝子が決めたこと=努力によっては克服できないのであきらめる、放っておく」と早合点してはいけない。それをとくにお伝えしたいと思います。

「遺伝子が決めたことなら、どうしようもない」とさじを投げずに、工夫を重ねて、お子さんに合ったやり方を見つけること。たとえば、ノートに書き写すのが苦手ならば、iPadなどのモバイルを使ってもいいし、正解すると効果音が出るアプリなどもあります。文字を目でうまく追えない子どもには、先に読んであげて、後からリピートさせると、音読ができるようになるかもしれません。
 
極端な運動ぎらいも学習上の困難さも、標準的なやり方や基準を強いるだけではなかなか解決に結びつきません。遺伝子が決めた個性であることを認めた上で、さまざまな角度から彼らにぴったりのやり方を探り、試してみることです。
 
ちょっとここで想い出話をさせてください。あれはぼくがアメリカのハーバード大学に留学していた1990年ごろのことです。ボスであった医学部教授は、ある難病の原因とされる遺伝子を発見したことで世界的に有名な女性医師でした。じつは彼女には、医師、学者としては決定的ともいえる大きなハンディキャップがあったのです。学習障害のひとつに分類されるディスレクシア(発達性読み書き障害)。読み書きが極端に苦手という個性のために、彼女は文書をスムーズに読むことができないのです。とくに長い文書などはお手上げです。さて、どうしていたと思いますか?
 
教授のもとには毎日毎日、大量の書類がまわってきます。それは、もううんざりするほどに。承諾のサインをするのに一枚ずつ丁寧に目を通し、理解していたのでしょうか。ディスレクシアによって子どものころから苦労を重ねてきた彼女は、すでにその問題を解決していました。書類を秘書や医局員に読みあげさせて、承知したらサインするのです。彼女は医学部の授業でも、自身がディスレクシアであることを公言していました。はじめてその話を聞いたときは驚いたのですが、ほんとうのことでした。文書が読めないから読みあげてもらうだけ。自分が苦手なことは周りの手を借りる。それをあれほどさり気なくできていたのは、多様性を認めるアメリカ文化が背景にあったのかもしれません。ぼくがアメリカ留学で学んだ大事な教訓のひとつです。
 
日本ではディスレクシアを抱えた子どもたちは、小中学校の学習でつまずき、「怠けている」「ふざけている」と学校の先生から誤解されて問題児扱いされることもあるようです。いっぽう、少しずつ理解が進んで、なかには上手に子どもに力を貸している先生もいるようです。ディスレクシアの子どもたちのために、読みやすいフォント(文字の形)が開発され、個性に合わせた学習方法も工夫されるようになってきました。
 
とはいえ、悩んでいるおかあさん、お子さんもまだまだ多いと思います。将来のこと、進路などを考えると、不安はぬぐえないかもしれません。そんなときには先ほどのハーバード大学の女性教授のエピソードを思い出してください。たとえ長い文章が読めなくても、医学部の主任教授になり、不治の病と言われた難病を治療する糸口を見つけたのです。それまでには、葛藤も努力も運も才能もあったと思います。しかし、彼女自身の努力と周りの人々の協力によって、「読み書きが苦手」という重大な一見、決定的なハンディキャップは見事に克服されていました。
 
あらかじめ遺伝子が決めたことであっても、それが重大な問題と思えても、運命として受け入れる必要はないのです。弱点に目を奪われずに、優れたところ、得意なことを見つけてみませんか。もちろん、誰もが彼女のようになれるわけではありませんが、こんな素晴らしいロールモデルがいたことを、今、子育てに悩んでいる両親や自信を失いかけている子どもたちに、ぜひ、お伝えしておきたかったのです。

【次回に続く】

高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授。医学博士。専門は小児科一般と小児神経。1957年、8月生まれ。1982年慶応義塾大学医学部卒業。1988年から米国マサチューセッツ総合病院小児神経科に勤務、ハーバード大学医学部の神経学講師も勤める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で、医師、教授として活躍している。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。
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『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』
高橋孝雄 著
マガジンハウス
定価:1,404円 (税込)
https://magazineworld.jp/books/paper/3013/


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