
ちょっと美味しくて毒がある!? 架空の果物「ガジ」って?【連載・室木おすしの「娘へ。」】
この連載は……
イラストレーターで、3歳と1歳の双子の女の子のパパ、室木おすしさんによる育児イラストエッセイ。
娘が将来結婚などして(しなくても)離れていってしまうことが今から心配で、0歳のころから、娘とのあれこれを結婚式で思い出そう!と「娘素材集」を頭の中にコツコツと作っている、という室木さん。
この連載では、よりすぐりの素材をチョイス。
室木さんが娘の結婚式でスピーチとして娘に読んでいるような体でお送りします!
ガジ

娘へ。
あなたが3歳の頃に作った架空の果物を覚えていますか?
その名も
「ガジ」
おおよそ美味しいとは思えない響きのその果物のことが、突然頭に降りてきたようで、あなたは夕飯を食べることをうやむやにしながら語り始めました。
「お父ちゃんガジってち(知)ってる?」

そんな始まりだった気がします。
当然、「ガジ?知らない」と答える私にあなたは嬉々として、「ガジは柿に似ている果物だよ」と教えてくれました。
ガジは柿に似ている果物なのです。
会場の皆様も、ぜひ覚えていってください。娘の初めて考えた「ない」果物です。
ガジはピンク色だそうです。
私は驚きました。ガジという響きで、ましてや柿に似たその果物の色がまさかピンク色だとは思っていなかったですから。
段ボールの切れ端に八百屋の店主が殴り書きをした「ガジ」という文字の傍らにピンク色の柿みたいな果物が置いてあったら、私はきっとぎょっとすると思います。そしてなんとなく「南国のかな?」と思うことでしょう。
それくらい意表を突いた果物だと思いました。
気になるのはその味なのです。
もちろん私は聞きました。それは美味しいの?と。
するとあなたは、
「ちょっと美味しい」と答えました。
…一体誰が買うのでしょうそんな果物。ちょっと美味しいだけのピンク色した柿みたいな果物、その名もガジ。
恐ろしくも不要な果物をあなたは生み出してしまったのです。
さらにあなたは付け加えました。
「あとちょっと毒がある」と。
なんと毒まであったのです。何のメリットもない果物、それがガジ。
そうなるとガジ農家は一体どの面を下げて栽培をしているのでしょう。近隣の人からなんと言われているのでしょうか。
ガジ農家へ嫁いだ娘があじわう、姑にガジ農法を教え込まれている時間、最悪の時間だなと思いました。
さて、当時の私はというと、ちょっと毒があると聞いたそのガジに対して、
「えーじゃあ食べたくないじゃん」と至極まっとうな意見を思わず言ってしまいました。
するとあなたは、適当に考えていた架空の果物だったけど、食べてもらえないのは嫌だと思ったのでしょう。
最後にこう付け加えたのです。
「でも、栄養がある」と。
私は思わずおもいきり笑ってしまいました。
栄養があるのです。ガジには。毒があって美味しくないけど。
「じゃあひとつください」
私がそう言うと。
あなたは嬉しそうに
「ハイどうぞ」
と見えないガジをくれました。
本当にあったら絶対食べたくないけど、あなたが渡してくれた見えないガジは、なんだか幸せの味がしたように思います。
とても楽しい夕時でした。
結婚おめでとう。

【続く】
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心の披露宴は心の雅叙園の中、生い立ち映像が流れている、いくつかあるスクリーンのどれもが微妙な角度で見えづらい席に座ってしまったな…などと思いつつ
まだまだつづく。

室木おすし
イラストレーター、漫画家。長女と双子の次女・三女の父。
悲しみゴリラ川柳家元。オモコロネットラジオ「ありっちゃありアワー」パーソナリティ。
雑誌やWEBで記事や漫画の執筆をしたり、広告でイラストやGIF動画を作成したりと日々あくせく。
夜泣きのひどい次女の抱っこには定評があり、2018年には生春巻きが好きだという自分の側面にはたと気づいた。