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「謝らなければならないことがある」誕生日会の悲劇【連載・室木おすしの「娘へ。」】

2019.02.11

この連載は……

イラストレーターで、3歳と1歳の双子の女の子のパパ、室木おすしさんによる育児イラストエッセイ。

娘が将来結婚などして(しなくても)離れていってしまうことが今から心配で、0歳のころから、娘とのあれこれを結婚式で思い出そう!と「娘素材集」を頭の中にコツコツと作っている、という室木さん。

この連載では、よりすぐりの素材をチョイス。

室木さんが娘の結婚式でスピーチとして娘に読んでいるような体でお送りします!

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「謝らなければならないことがある」【第21通目】

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娘へ。

私はあなたに謝りたいことがあります。

もうずっと昔の話です。
それはあなたが幼稚園の年少さんだったころのことです。

通っていた幼稚園では月別にちょっとした誕生日会を開いており、同じ月生まれの子たちが同時にお祝いをしてもらえる会がありました。
その会は保護者も参加することができ、フリーランスの特権を活かし、平日の朝から私と妻は妹らを引き連れてあなたの誕生日会へ参加しました。

同じ月生まれの子達は4人いて、みんなの前に椅子を並べ座っていました。
まず初めに、それぞれの子供たちにインタビューをするというコーナーが始まりました。

「何月何日生まれですか?」
先生におもちゃのマイクを向けられ、そう質問されたあなた。
当時まだ日にちの概念があまりなかったので、わからないかも?と思いましたが、案の定、「何月何日生まれって何?」といった面持ちで、あなたは固まっていました。
そもそもシャイだったあなたです。
私は声にならない声で必死に教えましたが、全く伝わらず、インタビュアーである先生が、「じゅう…にが…つ…?じゅう…?きゅ……う…に…ち?」と誘導しつつ全てを言って終わりました。

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続いて「好きな食べ物は何ですか?」という質問をされました。
すると今度は、常軌を逸した間を空けつつも、中森明菜にさらにサイレンサーをつけたような声量で、

「…スープ」

とあなたは答えました。

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スープが好きだなんて全く聞いたことがなかったので、本当に?と思ってしまいましたが、とにかく質問に答えられたことに私は喜びを感じてしまいました。

先生はさらにこう質問しました。

「何スープが好きですか?」と。

攻めるねぇと思いました。この娘に具体的なスープの種類まで絞り込もうとするとは。
「………」
しかし予想通りあなたはまた、心ここにあらずといった状態で、目をしこたま泳がせるばかり。

そんな放心状態のあなたを見て心配したのでしょう、前にいるやさしいお友達が、
「…コーン」
と助け舟を出してくれました。いや、それ、お前の好みだろ、とは思いましたが、あなたは言われるがまま
「…コーン」
と言っていました。

ポカンと流されるまま生きている。ああ、私の娘だなぁと思ったものです。

その後の質問も、覇気ゼロで、答えていましたが、
将来なりたいものがプリンセスという答えだったのが、可愛くて素敵でした。

さて会は進み、みんなでゲームをするという運びになりました。
椅子とりゲームです。
親御さんもご一緒にと言われ、私は参加しました。
ここで本来なら娘の隣に入るところだったのでしょうが、間の悪い私は娘とは全然違う位置に入ってゲームがスタートしました。
そのことが、このあと起こる悲劇の第一歩だったのだと思います。

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先生のピアノの演奏と同時に椅子の周りを回ります。
勝ち残ってもしょうがないと思った私は、早々に負けてしまおうと思っていたのですが、前にいる女の子が私に
「絶対勝とうね!」と妙にやる気を出させるので、少しは頑張らないと、と思っていました。

するとピアノが止まりました。皆勢いよく座ります。前にいた女の子も座りました。
そして私に向かって「ここ!ここ!」と空いている椅子を指差してきました。
その熱意に打たれ私は促されるまま座りました。

5人ほどの子供たちが脱落しました。
あなた(娘)は勝ち残っていました。

またピアノが始まります。つぎはもう負けよう。そう私は思っていました。できるだけ園児が楽しむべきだと。

ピアノが止まりました。
前の子はまたうまく座れました。そして
「ほら!ここ!」と私に空いている席を教えてくれます。良かれと思っている感がすごいです。私の目の前にがら空きの椅子。それを勧めてくれる4歳児。
これを断るのは悪いなぁと思い私は座ろうと思いました。と同時に私は周りを見回しました。あなたが座れているか確認したのです。

「あ」
小さく声が出ました。

席に座れなかったあなたがキョロキョロと席を探していたのです。

瞬時に思いました。
この席をあなたに譲りたいと。

しかしあなたの周りにはあなた同様座れなかったお友達が5人ほど席を探していました。

ここで私の脳みそは高速で考え始めます。

私の一番の希望はあなたに席を譲ることです。
しかしそのためには、前にいる女の子の善意を無視しなければならない。
さらに、他にも座りたいと思っている子供たちを全部無視して、娘だけに席を譲らなければならない。
あなたの父がそんな人間でいいのか。

すると
あなたと目が合いました。
あなたは私の前に席が空いているということに気づきました。

走ってくるあなた。

必死に。

一生懸命。

私は、

私は、

体が止まらない。
椅子に向かう私。
あなたの父が周りの子供ら無視してあなただけをえこ贔屓するような人間でいてはならない。
そう思ったのです。

でも、

私は

あなたに

喜んで欲しい。

高速で処理している脳みそは、その光景をゆっくりと映しだしました。
今でも鮮明に覚えています。

一歩、一歩、
小さな体を一生懸命動かして走ってくるあなたを。

しかし空いている椅子へと向かっている体を止めることができない私自身を。

私は

座りました。

全速力でかけてきたあなたの目の前で、
奇しくもいろいろな葛藤で迷いが生じ、あなたが駆け込むギリギリで座るという、あなたにとって一番衝撃的なタイミングで。

その時のあなたの顔は鮮烈に脳裏に焼き付きました。

「え?」
信頼している人間に突然裏切られ、現状が理解できない顔。

MRIで脳を検査すれば
あの時の生気を吸い取られたような呆然としたあなたの顔が、くっきりと映るのではないかと思います。

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私はその後の会のことを何も覚えていません。
ああ、なんて悪いことをしたのだろうと、後悔ばかりしてしまって。

私はただあなたが楽しんでゲームをしている姿を見に来たのだというのに。

これが私の後悔です。

しかし今日このように幸せそうな姿を見ると、あの時の裏切りでやさぐれてしまわなかったようでよかったです。
あの時はごめんね。
私は決して、あなたに椅子とりゲームで本気に勝とうとしていたわけではないのです。

そして今日あなたがこの披露宴の一番の特等席に座れていることを私はとても嬉しく思っています。
今日は結婚おめでとう。

誕生日は覚えられたかな?

【続く】
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心の披露宴は心の雅叙園の中、席の都合で一人だけ年齢層も価値観も違うクソつまらなそうな席に入ってしまった人は、ご祝儀5000円くらい安くしてもいいんじゃないかと思いつつ
まだまだつづく。

001-illust-05プロフィール

室木おすし

イラストレーター、漫画家。長女と双子の次女・三女の父。
悲しみゴリラ川柳家元。オモコロネットラジオ「ありっちゃありアワー」パーソナリティ。
雑誌やWEBで記事や漫画の執筆をしたり、広告でイラストやGIF動画を作成したりと日々あくせく。
夜泣きのひどい次女の抱っこには定評があり、2018年には生春巻きが好きだという自分の側面にはたと気づいた。

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