「凍るブーム」は突然やってきた。風呂場へ行くと、全裸で固まっていた娘【連載・室木おすしの「娘へ。」】
この連載は……
イラストレーターで、3歳と1歳の双子の女の子のパパ、室木おすしさんによる育児イラストエッセイ。
娘が将来結婚などして(しなくても)離れていってしまうことが今から心配で、0歳のころから、娘とのあれこれを結婚式で思い出そう!と「娘素材集」を頭の中にコツコツと作っている、という室木さん。
この連載では、よりすぐりの素材をチョイス。
室木さんが娘の結婚式でスピーチとして娘に読んでいるような体でお送りします!
「凍るブーム」【第25通目】
娘へ。(長女)
あなたが4歳の頃。お風呂はだいたい妻が入れておりました。私は主に体を拭いてクリームを塗る係りを担当していたのですが、あなたはその頃のことを覚えているでしょうか。
風呂場にはこちらに聞こえる呼び出しボタンが有り、出たくなったらこちらに知らせ、振き側の準備を促すスタイルでした。
呼び出しが鳴る。風呂場へ行く。子供が出てくる。という流れです。
そんな中、そのブームは突如として発生し、そしていつの間にか消えていったのです。
凍るブームです。
ある日あなたは、私が風呂場へ行くと、全裸で固まっていました。
何をしてるの?と聞くと。
「ののちゃん凍っちゃった!」
と言ったのです。
そんな安易なギャグに、私は不覚にもめちゃくちゃウケてしまいました。だって最高じゃないですか、風呂に入ったばかりなのに凍っていたら。
私がウケたことに、味をしめたのか、それからあなたは毎日風呂上がりに凍りました。
さらに回を重ねるごとに、凍っているポージングもバリエーションを増し、ある日は土下座のようなポーズで、ある日は後ろ姿で、と飽きさせない演出をしてくるのです。
またある日にはあなたが知る由もない立川談志のようなポーズで固まっていたので、私はめちゃくちゃ笑ってしまいました。立川談志のポーズは世代を超えているんですね。
さてそんな素晴らしき毎日の中、その日の夜も風呂場から呼出音がなりました。
しかし私はすぐに風呂場に行けない状況で、呼出音がなってしばらくしてから風呂場へ行ったのです。
今日も凍っているかな?とゆっくり脱衣所のドアから中を覗くと、まだあなたは出てきていませんでした。
いや、中を見て私は気づきました。
風呂場の扉が少し空いていて、あなたがこちらの様子を伺っていたのです。
ああ、そうか。と思いました。
風呂上りにずぶ濡れの状態で凍っていると、わりと寒いのでしょう、あなたは私が来る直前に凍るように、風呂場でスタンばっていたのです。
凍るスタンバイ。
この世にそんなスタンバイがあったのですね。私はあなたに教えられました。
このスタンバイに応えなくちゃならないと、私はちょっと大きな足音を立て、再度風呂場へ行きドアをあけました。
すると、あなたはさっと風呂場のドアを空け、熟練の凍り師がまるで舞うかのようにすっと凍ったのでした。
それから数日後あなたは突然凍らなくなりました。
なんで凍らなくなったの?と聞いたら、
もう凍らないよ…
と、なぜかニヤニヤしながら教えてくれました。理由はたぶん飽きたからだと思います。
結婚おめでとう。
思い出すと笑ってしまうたくさんの思い出をありがとう。
第二次凍るブームが来たら教えてください。
【続く】
________________________________________
心の披露宴は心の雅叙園の中、心の「ホテルインターコンチネンタル東京ベイ」のことも想像しながらまだまだつづく。
室木おすし
イラストレーター、漫画家。長女と双子の次女・三女の父。
悲しみゴリラ川柳家元。オモコロネットラジオ「ありっちゃありアワー」パーソナリティ。
雑誌やWEBで記事や漫画の執筆をしたり、広告でイラストやGIF動画を作成したりと日々あくせく。
夜泣きのひどい次女の抱っこには定評があり、2018年には生春巻きが好きだという自分の側面にはたと気づいた。